第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈20〉
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〈アーデル・ファーム〉城内の警備にあたっていた厩務員たちは、いきなり城内へ不審者が乗りこんでくるとは思っていなかったにちがいない。
しかも不審者はグラゴードリス皇国の召喚師ではなく、見たこともない衣服を身にまとい、2匹の小さな召喚獣をしたがえた黒髪異国の爆乳美少女である。
〈アーデル・ファーム〉の厩務員たちは朱音さんの異国風の美貌と爆乳に目をうばわれ「だれだっ!」と誰何するのも忘れた隙に、ひとにらみで〈石化〉されていった。
後世の歴史書に『〈シュピーリ・ファーム〉三角城襲撃』の首謀者とも記される伝説の魔女〈石化〉の魔女・シュオンの地味なデビュー戦がこれだ。
〈アーデル・ファーム〉の全容こそ知らないが、オレとまりるは〈アーデル・ファーム〉最上階にあるアレストリーナ姫の居室から地下迷宮へ下りた経緯がある。
オレはまりるを介して朱音さんを誘導し、最短経路で最上階へのぼりつめた。アレストリーナ姫の居室前にはさすまたを手にした警護の厩務員がいたが、声をあげる間もなく朱音さんが〈石化〉させた。
「コンコン」
堅い樫の扉をノックする音に室内の人物がこたえた。
「入るぞよ」
黒髪異国の〈石化〉の魔女と愉快な2匹は室内にいる人物の許しを得て正々堂々と入室した。
机に向かっていたネブラスカス皇女は、4本腕のモッケイモンキーを肩に乗せ、足元に小さなトンカプーをしたがえた見知らぬ異国の黒髪爆乳美少女・朱音さんの姿に一瞬うろたえた表情を見せたものの、即座に冷静さをとりつくろった。
「……正面突破とは見上げたものじゃ。アレストリーナ姫の人間召喚獣にしておくのは惜しいぞよ」
「はじめまして、ネブラスカス皇女。私はアレストリーナ姫の人間召喚獣ヘルゴルゴートの杏條朱音です」
「ヘルゴルゴートか。アレストリーナの召喚獣戦闘でそちの勇姿は何度か目にしておる。ヒメアンドロとの模擬戦闘でアレの攻撃をまっこううけとめたのはそちであったな」
ネブラスカス皇女の言葉に小さくうなづくと朱音さんが云った。
「アレストリーナ姫を助けにきました。彼女に非はありません。金色召喚牌をわたしてください」
相手の出方をさぐるでもなく単刀直入に用件を告げる朱音さんの男らしさにオレは内心感嘆した。ネブラスカス皇女がグラゴダダンの一味なら、このセリフは宣戦布告に等しい。オレとまりるはしずかに身がまえた。
数秒、朱音さんの瞳を凝視したネブラスカス皇女が意を決したようにつぶやいた。
「実は先刻、ジギリスタン皇国とグラゴードリス皇国の国境にほど近い南西の〈ゼーゼマン・ファーム〉がグラゴードリス軍に占拠されたぞよ。大将召喚師はグラゴードリス皇国第2皇子・グラゴダダン殿下じゃ」
「グラゴダダンが!?」
ネブラスカス皇女の言葉に朱音さんとオレはいろんな意味で耳をうたがった。ネブラスカス皇女がグラゴダダンの一味であればこんなことは云わないし、召喚人獣まりるに指を斬り落とされたグラゴダダンがこんなにはやく先陣切ってアルマイリス皇国へ攻め入るとは思わなかったからだ。
「おり悪しく〈ゼーゼマン・ファーム〉にはヒメアンドロがいたぞよ。グラゴダダン殿下はわらわのところへ密書をおくりつけ、ヒメアンドロを人質にこう通告してきたぞよ」
ネブラスカス皇女が机の上にあった密書らしきものを朱音さんへ向かってかざすが、朱音さんもオレも惑星アルマーレの文字は読めない。いぶかしげに首をかしげる朱音さんへネブラスカス皇女が要約した。
「明日の昼までにアレストリーナをさしだせ。さもなくばヒメアンドロを殺す、と」
「密書……てことは、アレストリーナ姫がこちらに捕えられていることはまだ公表されていないんですね?」
朱音さんの問いかけにネブラスカス皇女がうなづいた。
「むろんぞよ。しかし〈アーデル・ファーム〉にも敵の内通者がいるようじゃ」
グラゴダダンではなくアルキメヒトに与する者であろう。
「人質を殺すなんて発想、こっちじゃありえなくないですか?」
「まったくもって狂気の沙汰じゃ。脅迫にしても常軌を逸しておる」
「でも、アレストリーナ姫に猟銃を撃ったグラゴダダンならやりかねません」
「あな、かだましや! グラゴダダン殿下とはさほどの狂人か……」
朱音さんの言葉にネブラスカス皇女が絶句した。
「ネブラスカス皇女。アレストリーナ姫を釈放してください。ヒメアンドロ殿下は私たちの手でお救い申しあげます」
「……しかし」
逡巡するネブラスカス皇女へ朱音さんがたたみかけた。
「グラゴダダンへアレストリーナ姫を丸腰でさしだせば、ヒメアンドロ殿下ともども殺されかねません。表向きは逃走中で行方不明のアレストリーナ姫が召喚獣をともなってあらわれたとしてもふしぎではありませんし、グラゴダダンには〈石化〉の魔女に金色召喚牌とアレストリーナ姫をうばわれたとつたえれば納得するでしょう」
ゲートや人間召喚獣のカラクリを知るグラゴダダンであればなおさらだ。
「グラゴダダンとアルキメヒトの狙いはジギリスタン皇国をアルマイリス皇国の領土とすることです。うちの軍師の見立てでは、大陸を二分したのち、ジギリスタンとアルマイリスを争わせ、漁夫の利を得るかたちでグラゴードリス皇国が統一すると云うシナリオのようです」
「……こちらではなく〈ゼーゼマン・ファーム〉を攻めたは、義に篤いジギリスタン皇国をまきこむ算段であったか」




