第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈8〉
「……グラゴダダンの〈シュピーリ・ファーム〉にはアルキメヒト中兄さまが留学中だっちゃ。アルキメヒト中兄さまと連絡がとれればなにかわかるかもだっちゃ」
アルマイリス皇国第2皇子・アルキメヒト殿下はグラゴードリス皇国へ留学中と聞いていたが、グラゴダダンの居城とは知らなかった。
「連絡にはどのくらいかかる?」
「飛行召喚獣に密書を託しても片道1日はかかるっちゃね」
グラゴードリス皇国とアルマイリス皇国の間には峻厳なノイエルム山脈が縦断しており越境は容易ではない。
「PCゲーム『フェアモン・バトル』経由ならすぐなんじゃね?」
今、オレたちはPCゲーム『フェアモン・バトル』からTV電話やメールのやりとりをしている。
惑星アルマーレにもTV中継および受信用の召喚獣や魔法がある。しかし、これらには盗聴防止機能がない。惑星アルマーレはTVやラジオがあっても電話やメールのない世界なのだ。
しかし、時間の流れ方が異なる惑星アルマーレと地球をつなぐこともできるPCゲーム『フェアモン・バトル』経由なら楽勝だと思ったのだが、アレストリーナ姫が頭をふった。
「PCゲーム『フェアモン・バトル』はアルマイリス皇国の国家機密で、ノートPCを国外へもちだすことは禁じられているっちゃ」
アルキメヒト殿下は留学先にPCをもっていかなかったらしい。デスクトップやタブレット端末ではなくノートPCだったと云うのも初耳だ。
「グラゴダダンって地下迷宮からでてきたじゃん。地下迷宮経由なら時短できるんじゃない?」
朱音さんの疑問にアレストリーナ姫がこたえた。
「直線距離ならアルマイリス皇国〈アーデル・ファーム〉からグラゴードリス皇国〈シュピーリ・ファーム〉まで80クンテ。サーベルサーバルに騎乗しても片道2時間でいける距離だっちゃけど……」
「肝心のぬけ道が見つからなかった」
グラゴダダンのあとを追って探索したオレが補足した。はてさて一体どうするべきか? とみんなで頭を悩ませているとまりるがあっさり云った。
「地下迷宮、ぬけ道、知ってるるる」
「マジで!?」
思わず声をあげたオレにまりるがしっかりうなづいた。
「まりる、逃げてきた道、おぼえてるるる。カオルたち案内できるるる」
「……イケるっちゃね」
まりるの言葉にアレストリーナ姫の瞳がアヤしくかがやきだした。オレにはイヤな予感しかしない。
「今からいけば、夜には〈シュピーリ・ファーム〉へ潜入できるっちゃ」
「今から、ですか?」
「グラゴダダンの意識が地球へ向いている今なら油断も隙もあるはずだっちゃ」
「そうなの?」
オレが瑞希へたずねると、瑞希が小首をかしげた。
「わからん。ただ、調査がはやいにこしたことはない」
「それじゃ準備してくるっちゃから、ふたりはそのまま待ってるっちゃ」
「ふたりって……オレもっすか?」
「当然だっちゃ。まりるだけ召喚できないっちゃし、一番小さなトンカプーなら隠密行動にうってつけだっちゃ」
「あの~、どうせなら全員召喚すればよいんじゃありません?」
菜々美ちゃんの疑問をアレストリーナ姫が否定した。
「ナナミたちが地球でスタンバっていれば、ウチは惑星アルマーレのどこからでもナナミたちを召喚できるっちゃけど、一旦ナナミたちを惑星アルマーレ(こっち)へ召喚したら、あとは一緒に行動するしか手はないっちゃ」
ふつうの召喚獣ならいざ知らず、惑星アルマーレへ召喚されたオレたち人間召喚獣を惑星アルマーレのA地点からB地点まで召喚牌で召喚することはできない。
その上、極秘の潜入捜査に巨竜サンドロバルバドスをひきつれて歩くことなぞ夢のまた夢。
「いや、あのオレまだ明日、最後の夏期講習があるんですけど……」
アレストリーナ姫がオレの言葉を待たずにPC画面から姿を消した。だれも映っていないアレストリーナ姫の部屋の石壁を照らす黄色い光が夕刻を示唆していた。
「むこうでの調査にまる1日かかっても地球で経過する時間は8時間。朝までには帰還できる」
「じゃあ、大丈夫きゅん」
瑞希の試算に朱音さんがお気楽なことを云ったが、オレの体感だと24時間一睡もせず夏期講習へいくことになる。しかも最終日にはテストがある。どう考えても気力体力的にキツイ。ぜったいにムリ。
「そもそも1日で調査のおわる保証は?」
「ない」
「夏期講習にでられなかったらど~すんだ?」
「その時は私がカオルちゃんの性ドレイのふりして高校へ欠席の連絡しといてあげる」
「そこはせめてお母さんだろ!?」
『もしもし、私、香坂香の性ドレイですけど、今日は大切な調教があるので夏期講習は欠席いたします』とでも云うんか!?
朱音さんのあからさまなボケに思わずツッコミを入れてしまう自分が情けない。
最悪、無断欠席だけはまぬがれることができそうだが、まりると一緒に召喚されることだけはまぬがれられないらしい。




