第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈9〉
ふかぶかと嘆息するオレを尻目に朱音さんたちが今後について話あっていた。
「カオルちゃんたちがむこうへいったら、私たちもうここでやることないよね。どうするミズキュン?」
「とりあえず明日までは合宿とミナヨにつたえてあるし、急な召喚があるかもしれない。どうせカオルはいないのだからのんびり待機させてもらおう」
「そっか~そうだね。ナナミンも今夜は泊まっていきなよ」
「う~ん。でも、菜々美、明日も部活あるし……」
「帰りにグラゴダダンの襲撃とかあってもマリルンいないと困るし、あかるくなってから動いた方がよくない? ナナミンのおうちへ電話する時、私からもきちんとお話すれば、ご両親に心配かけることもないと思うんだけど」
「……そうですね。それじゃ菜々美、今日は泊まっていきます」
ええええっ!? 菜々美ちゃんがうちへお泊まり!? 菜々美ちゃんがうちへお泊まり!?
「ここは瑞希とまりるが惑星アルマーレへいくべきではなかろうか?」
下心しかないオレの意見を瑞希が即座に却下した。
「私があのせまい地下迷宮をとびまわるのはムリだ。会話のできない召喚獣でいるより、こちらでバックアップにまわっている方が火急の指示もだしやすい」
おおせのとおりである。方向音痴の瑞希とアレストリーナ姫のタッグで地下迷宮を征くなど狂気の沙汰だ。ぬけ道へたどりつく前に遭難する。オレは悄然と肩を落とした。
「まりるちゃん、おわかれだね。今度はむこうで一緒に召喚獣戦闘しようね」
菜々美ちゃんがまりるの頭をやさしくなでると、まりるが菜々美ちゃんへ抱きついた。
「うん! まりる、ナナミと召喚獣戦闘するるる!」
「そっか。マリルンとこの姿で会うの、もう最後か。……なんかジェットコースターな数日でおもしろかったきゅん」
菜々美ちゃんへ抱きついたまりるの頭を朱音さんがうしろから頭皮マッサージするみたいに指先だけでやさしくなでた。
「るる?」
まりるが顔だけ朱音さんの方へ向けると、瑞希もイスに腰かけたままふりかえり、まりるの頬を人さし指の甲で軽くなぞって云った。
「ジェットコースターな数日とは云い得て妙だな。固定観念を打破する不確定要素の多さこそ学問の深淵の扉を開くと実感させてくれた。楽しかったぞ、まりる」
「まりるもみんなといる、楽しいるる! ずっとみんなといたいるる!」
状況をまるっと理解していないまりるの無垢な言葉にオレたちはみな泣きそうになった。
今後もまりると会う機会はあろう。しかし、それは召喚獣戦闘と云う刹那の戦場か、どこかの厩舎だ。その時はみな召喚獣の姿で言葉をかわすこともできない。
いささかしんみりとした場の雰囲気をPC画面からひびくアレストリーナ姫のあかるい声が蹴散らかした。
「ミズキ、こっちは準備OKだっちゃ! カオル、今から召喚するっちゃからモッケイモンキーとしっかりくっついとくっちゃよ」
「ほら、まりる。おんぶしてやるからこい」
オレがまりるへ手をさしだすと、
「抱っこ!」
と云ってまりるが正面から両手両足をからめてオレへ抱きついた。
「だっ! こら、まりる、耳はむはむしない!」
「アレストリーナ姫、よいぞ」
瑞希の言葉にアレストリーナ姫が金色召喚牌を閃かせてさけんだ。
「召喚ッ!」
PC画面のアレストリーナ姫に一拍おくれて、オレの頭上で声がひびいた。
『召喚ッ!』
一学期の最後に瑞希と菜々美ちゃんの前で召喚された時は、ふたりともオレの召喚に気づかなかったが、今は天井へうかび上がる緑色の呪法陣が見えるらしい。
アレストリーナ姫がみんなの目の前で(と云ってもPC画面ごしだが)召喚したせいかもしれないし、おたがいを人間召喚獣と認識したためかもしれない。オレはまりるとともに呪法陣へと吸いこまれて消えた。
「帰ってきたら連絡するっちゃ」
アレストリーナ姫がログアウトして瑞希もPCをスリープさせた。
オレとまりるの消えた部屋で朱音さんがぽつりとつぶやいた。
「……どうしてアルマイリスの人たちってみんななまってんだろ?」
「そうそう! しかも兄弟姉妹でみんななまりがちがうし」
口の動きと聞こえる音が微妙にちがっているため、たがいの脳内でアルマイリス語と日本語が翻訳されているところまではたしからしい。
朱音さんと菜々美ちゃんの視線をうけて、瑞希が小さく頭をふった。
「私も前々から気になってはいたが……ナゾだ」




