第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈3〉
最初のクライマックスをおえて花火がおさまり、冥い闇の中にぼんやりとかすむ白い煙幕が地上の光をうけてうっすらと赤くにじむ。
「すいません朱音さん。ちょっとよく聞こえなかったんですけど……」
朱音さんへ顔を向けると背後からものすごい勢いでせまりくる黒い影が見えた。
「!?」
とっさに朱音さんを正体不明の影からかばうと、まりるが機敏な動作でとぶように走る黒い影へ綿あめの棒を突き刺していた。
「ケギャアアッ!」
正体不明の黒い影が悲鳴をあげて夜空へひるがえり、まりるがオレと朱音さんをかばうように前へ立った。
「ちょ……なに!?」
菜々美ちゃんも虚空でホバリングする黒い影に狼狽してオレたちの側へ身をよせる。
花火大会の第二幕を告げる金色の打ち上げ花火が黒い影の正体を照らしだした。
「……ウソだろ!?」
オレはわが目を疑った。大きな皮膜の翼をひろげて宙にホバリングしていたのは、長いくちばしと尻尾をもつUMAだった。
C級召喚獣プテラノドラキュラ。体長1mほどの巨大な有翼吸血召喚獣である。
「プテラノドラキュラ!?」
意外なことにUMAの正体を看破したのは朱音さんだった。PCゲーム『フェアモン・バトル』を知っていると云うことだ。
片目に綿あめの棒を突き刺されて空中で苦しげにうめくプテラノドラキュラへ向かってまりるがとんだ。
「るるーっ!」
人間ばなれした跳躍力でプテラノドラキュラへ迫るまりるの腕が2本ふえており、4つの手に長いかぎ爪がひらめくと、プテラノドラキュラをバッテンに斬り裂いた。
「ギヒャアアッ!」
音もなく地上へ下り立つまりるの頭上でプテラノドラキュラが光に溶けて消えた。戦闘不能である。
「まりる。おまえ一体……」
4本腕のまりるがオレの言葉を無視してベタ黒の背景と化した林へ身がまえると、林の中から新たに2体の影が躍りでた。
「まりるちゃん、モッケイキシキシ!」
突然の菜々美ちゃんの言葉に反応したまりるが両4本腕のかぎ爪をこすりあわせた。黒板を爪でひっかいたようなギキィ~~ッと云う耳ざわりな音が周囲にこだまして、2体の影の動きがにぶり、オレたちもイヤなひびきに身悶えした。
夜空が花火でいろどられる最中、まりるが2体の影へ向かってダッシュした。新手の敵もプテラノドラキュラである。
1体のプテラノドラキュラがくちばしを開くと、ムチのようにしなる長い舌がまりるへおそいかかった。管状の舌で相手の血を吸うドラキュラタンだ。
まりるが身体をひねってかわしながら長いかぎ爪で細くのびるドラキュラタンを斬り裂いた。
「まりる、右上だ!」
オレはまりるの死角へまわりこむもう1体のプテラノドラキュラへの注意を喚起しながら、テーブルの上に置かれた虫除けスプレーとライターを手に駆けだした。
まりるが右頭上を舞うプテラノドラキュラに気づいて左へとぶと、ドラキュラタンを斬り裂かれたプテラノドラキュラがまりるへ向かって突進した。
「させるかっ!」
オレはまりるのななめうしろからライターを点火してプテラノドラキュラへかざすと虫除けスプレーを噴霧した。ライターの火へ噴霧された虫除けスプレーが引火してヴオッ! と小さな炎をあげ、プテラノドラキュラの動きを牽制した。即席の小型火炎放射器である。
「あっちゃっちゃい!」
ライターを押さえる指がさらっと炎になぶられて、オレはライターをとり落とした。すんでのところでヤケドするところだった。こんなこと、ワルいコも決してマネしちゃいかんぞ。
背をかがめ、炎の下をかいくぐったまりるが正面のプテラノドラキュラをバッテンに斬り裂いた。プテラノドラキュラが光につつまれる。2体目の戦闘不能だ。
まりるを右頭上からねらっていたプテラノドラキュラもドラキュラタンをくりだした。その直線上にいたオレが思わず手にした虫除けスプレーをドラキュラタンへ噴霧すると、ドラキュラタンがビチャッ! と溶け落ちた。
「わっ! 気色悪っ!」
地球の虫除けスプレーはあっちの吸血召喚獣にも効果があるらしい。プテラノドラキュラの素体って蚊だっけか? あ、でも虫除けスプレーに蚊を溶かす成分とかないし。
……などとつまらないことに気をとられている間にも、3体目のプテラノドラキュラは旋回して体勢をととのえなおしていた。
「まりる、右へまわりこめ!」
「マリルン、プテラノドラキュラの真下へ!」
オレと朱音さんの異なる指令にまりるが戸惑った。オレのはプテラノドラキュラと一旦距離をおく作戦だったが、朱音さんのはイケイケドンドンでプテラノドラキュラを追撃する作戦だ。プテラノドラキュラの真下は死角となる。
「アカネさんの云うとおりに!」
オレが自分の指令をとり消すと、まりるが瞬時に駆けだした。オレも虫除けスプレーのフタを開けてまりるへ突進するプテラノドラキュラへ投げつけた。




