第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈2〉
「カオルちゃん、ミズキュン、買いだしごくろう!」
朱音さんがオレたちの労を一言ねぎらうと、最高の鑑賞ポイントなるところへ移動した。
周囲に黒々とした木々のおいしげる原っぱで、丸太づくりの簡素な四阿にテーブルやベンチがしつられられていた。ところどころに街灯がともっていて不安になるほど冥くもない。
転落防止用の手すりをはさんで弁天川を一望することができた。視界をさえぎるものがなく空がひろい。たしかにここは花火大会の特等席だ。
そんなことより心配だったのはまりるのようすだったが、花火の轟音に臆することなく、夜空をいろどる一瞬のきらめきに目をかがやかせていた。菜々美ちゃんの腕にしがみついて歓声をあげている。
「まりるちゃん、すっごく楽しそう!」
菜々美ちゃんの言葉に瑞希も首肯した。
「つれてきてよかったね。……ほらカオルちゃん、蚊とり線香焚いて」
木製テーブルの上に屋台メシをならべながら朱音さんがオレヘ指図した。なんだかんだで人づかいがあらい。
オレは持参した虫除けスプレーをテーブルの上に置き、足元へ配した蚊とり線香にライターで火をつけた。全員でがけに虫除けスプレーしているので蚊とり線香にあまり意味はないと思う。
「菜々美ちゃん。これをまりるに」
オレはさりげなく菜々美ちゃんのとなりへ立つと、美少女アニメキャラパッケージの綿あめを菜々美ちゃんへあずけた。
「カオル、それなにるる?」
まりるのハテナに綿あめのパッケージをはずしながら菜々美ちゃんがこたえた。
「綿あめって云うの。食べてみて」
正体不明の白いふわふわにいぶかしみつつ一口食むと、まりるがうれしそうに目をまるくした。
「甘くておいしいるる!」
「よかった。これ、まりるちゃんのだからひとりで食べてよいよ」
菜々美ちゃんがまりるへ綿あめを手わたすと、まりるが笑顔で云った。
「みんなも一口食べるるる!」
まりるのさしだした綿あめをみんなが遠慮がちに小さくちぎって口に入れた。
「マリルンありがと!」
「……甘い」
「おいしい。……菜々美、綿あめなんて食べるの何年ぶりだろ?」
ひとりごちる菜々美ちゃんへオレもうなづいた。べたべたと口の中で溶ける甘い感じがなつかしい。
「きっとこれから綿あめを食べるたびに、こうやって菜々美ちゃんと見た夏の夜の花火のことを思いだすんだろうな……」
菜々美ちゃんへ遠まわしなアピールをしたつもりだったが、夜空へたてつづけに打ち上げられたババババン! と云う花火の音と光でオレのロマンチック(?)なセリフはかき消された。
「ほら、まりるちゃん見て! すっご~い!」
「きれいるる~っ!」
て云うか、オレの存在そのものが壮大な花火にかき消されていた。とほほである。
「いや~絶景かな、絶景かな」
朱音さんが透明なパックに入ったタコ焼きを頬ばりながらオレのとなりへ立った。
「どうよ、カオルちゃん?」
「最高っすね」
もちろん花火のことを云ったわけだが、
「そこまで私の浴衣姿にメロメロだなんて、どんだけエロエロなの?」
と朱音さんが悪意しかない曲解をした。
「花火の話に決まっとろ~がっ!」
オレのツッコミにあっはっはと笑った朱音さんが花火の轟音と閃光にまぎれてなにげない口調でたずねた。
「ミズキュンはどうよ?」
「はい? 瑞希がなんですって?」
瑞希の浴衣姿なら似あっているとは思うが、そんなことを口にすればどのようなからかい方をされるかわかったものではない。朱音さんの質問をはぐらかしたつもりだったが、朱音さんはかまわずつづけた。
「ミズキュン、屋台でどうだった? 花火楽しんでると思う?」
「屋台じゃ迷子にならないかと緊張してたみたいですけど、花火はふつうに楽しんでると思いますよ」
四阿のベンチに腰かけて花火をながめる瑞希の姿をかえり見てオレはこたえた。ポーカーフェイスで感情は読みにくいが、興味のないものへ目をやる瑞希ではない。
「……ふうん。やっぱりカオルちゃんだけだね。ミズキュンのことわかるの」
「はい?」
「ミズキュンってマリルンに抱きつかれても思わず身をひいちゃったりするんだよね。だからミズキュンがカオルちゃんに手をひかれて石段をのぼってきたのを見た時、私はきゅんきゅんしたのきゅん」
朱音さんがなにか云っているようだが、バンバカ盛大にはじける打ち上げ花火に目をうばわれて朱音さんの言葉を聞きもらした。




