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第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈1〉

挿絵(By みてみん)


     1



 日が暮れて、空が濃紫(のうし)にそまってもやっぱり外は蒸し暑かった。


 まだ花火大会がはじまるまで少し間があったが、花火大会のメイン会場となる弁天川の川べりは芋を洗うような人の群れでごったがえしていた。


 煌々(こうこう)とともる屋台のあかりが地上に天の川のような光の道を描いている。


 こんなところへまりるをつれてきたらぜったいパニックになっていたはずだ。オレとてパニックこそ起こさないものの人ごみのうっとうしさには辟易(へきえき)していた。はやく任務をまっとうして菜々美ちゃんの待つ本隊(?)へ合流したい。


 どうしてオレがこんなところへいるのかと云えば、


「花火大会を満喫(まんきつ)するためには、やっぱり屋台メシよねっ!」


 と云う朱音(あかね)さんの意味不明な勅令(ちょくれい)により買いだしクエストを押しつけられたせいだ。小腹を満たすための屋台メシとは云え、5人分の量をひとりではもちきれないと抗弁したところ従者がついた。瑞希(みずき)である。


 ひとりよりマシかと思ったが、会場の混雑を目のあたりにして、おくればせながら思いだした。瑞希(みずき)が究極の方向音痴であることを。


 おなじく会場の喧噪(けんそう)におそれをなしたであろう瑞希(みずき)も無表情でオレの手をにぎってきた。オレも瑞希(みずき)の手をにぎりかえして云った。


瑞希(みずき)、ぜったいに手をはなすなよ」


 買いだしクエストについてきた「荷物もちの従者」から「お荷物な従者」へとランクダウンした瑞希(みずき)が無言でオレの言葉にうなづいた。


 オレたちは魑魅魍魎(ちみもうりょう)のうごめく地下迷宮(ダンジョン)へいどむ冒険者のような覚悟でメイン会場の屋台通りへ歩をすすめた。


 屋台通りでオレたちを待っていたのは、ちょっとした羞恥(しゅうち)プレイであった。なにしろ瑞希(みずき)は「超絶天才ザンネン」の枕詞(まくらことば)を無視すれば「メガネ美少女」と云う端麗(たんれい)な容姿がのこる。


 しかも今宵の瑞希(みずき)は足元こそ合宿と云う名目でウチへきた時にはいていたギリシア風のサンダルではあったが、白地に藍色(あいいろ)の花模様をあしらった浴衣(ゆかた)藍色(あいいろ)(おび)をあわせた清楚(せいそ)な姿だった。


 長いぬばたまの黒髪を結い上げてほっそりと白いうなじをかいま見せる瑞希(みずき)に老若男女がふりかえる。


「……歩く姿はユリの花」を体現するメガネ美少女の手をひいて先導するのが甚平(じんべい)姿のオレだ。(はた)から見るとオレの方が瑞希(みずき)の従者であるらしい。百歩ゆずって瑞希(みずき)の従者とみなされるならまだしも、


「ねえねえ見て、あのカップル。女のコ、チョーカワイー」


 などと云う事実誤認の冷やかしがおちこちからもれ聞こえるのだからたまらない。だからと云って、


「カップルちがうある。オレむしろ保護者ある。このコ、手をはなすとすぐ迷子になるのことよ」


 と云いわけしながら歩くわけにもいかないし、羞恥(しゅうち)プレイに()えかねてこの手をはなせば瑞希(みずき)はまたたく間に迷子となり、オレはイタリア・ジェノバからアルゼンチンまで母をたずねて三千里を旅したマルコ少年の苦難を味わう羽目にもなりかねない。


 しかし一方、ふだんはあまり意識したこともないが、あれだけあからさまに冷やかされると、ちょっとばかし瑞希(みずき)を異性と意識してしまう自分がいた。


 華奢(きゃしゃ)でやわらかな瑞希(みずき)の手から伝わる温もりがなんだか少しこそばゆい。


 保護者感覚で瑞希(みずき)の手をにぎりかえした時は気にもとめなかったが、生まれた頃からのつきあいとは云え、瑞希(みずき)とのスキンシップなど記憶にない。


 もちろん瑞希(みずき)以外の女のコともプライベートで手をつないだおぼえはない。……なんて(かな)しいオレの青春。


 屋台で買いものをする時まで瑞希(みずき)と手をつないでいるわけにはいかなかったが、そんな時でも瑞希(みずき)はオレの甚平(じんべい)のそでをしっかりにぎりしめていた。


「へい、お待ち! ……おニイちゃん、カワイイ彼女べったりでうらやましいねえ!」


 そう屋台のオッチャンにまで冷やかされたが、


「彼女ではない。性ドレイだ」


 瑞希(みずき)が無表情で云い放ったどえらい下ネタジョークに一番肝が冷えた。


 とどのつまり、荷物もちの従者だったはずの瑞希(みずき)が手にしていたのは、まりるのために買った美少女アニメキャラパッケージの綿あめだけで、オレはそれ以外の屋台メシと瑞希(みずき)の手をとったまま、菜々美ちゃんたちの待つ薬子園城趾(じょうし)公園へいそいだ。



     2



 オレと瑞希(みずき)が高台にある薬子園城趾(じょうし)公園の長い石段をのぼっている背後で花火大会が幕を上げた。


 かぼそい笛の音が夜空へ打ち上がると、一瞬間をおいて豪快な破裂音とともに漆黒(しっこく)のキャンバスに大輪の花が咲いた。


「た~まや~!」


「るる~っ!」


「まりるちゃん、きれいだね~!」


 花火に照らしだされた石段の頂上で、朱音(あかね)さん、まりる、菜々美ちゃんが全員浴衣(ゆかた)姿で待っていた。


 朱音(あかね)さんは赤い鼻緒(はなお)黒駒(こま)ゲタに紫を基調としたシックな浴衣(ゆかた)姿。


 まりるは黄色地にオレンジの(おび)をあわせた座敷わらしのような浴衣(ゆかた)姿。


 菜々美ちゃんはピンク地に黄色の(おび)をあわせたコケティッシュな浴衣(ゆかた)姿であった。


 まりると菜々美ちゃんの足元は歩きやすさを重視したビーチサンダルだが、三者三様(瑞希(みずき)もふくめると四者四様)とてもよく似あっていた。


 まりるの浴衣(ゆかた)とビーチサンダルは菜々美ちゃんの見立てたものだが、朱音(あかね)さんと瑞希(みずき)浴衣(ゆかた)朱音(あかね)さんが用意していたものだ。朱音(あかね)さんは最初からみんなで花火大会へいくつもりだったらしい。

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