第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈4〉
虫除けスプレーごときでプテラノドラキュラ自体が溶けるとも思えなかったが、ドラキュラタンを溶かされたプテラノドラキュラは虫除けスプレーの軌道を大きく避けた。
「獲った!」
今のまりるにはその一瞬の隙で充分だった。
プテラノドラキュラの死角となる真下から打ち上げ花火よろしくとび上がると、長いかぎ爪でプテラノドラキュラを3たびバッテンに斬り裂いた。
夜空へ明滅するあざやかな花火をバックに最後のプテラノドラキュラが戦闘不能した。まりるの影がしなやかに着地する。
「カオルありがとるる~! また助けてくれたるる~!」
すっかり浴衣の乱れたまりるが白いふともももあらわにオレへとびついた。
「だ~っ! 暑いっ! ひっつくな、まりる! ……て云うか、また?」
照れかくしにもがくオレとまりるの眼前を一条の白い光が奔った。四阿に立つ瑞希が強力なビームライトで暗い林の中を照らしていた。手のひらサイズの懐中電灯だが軍用レベルの光量である。おそらくは瑞希の発明品だ。
瑞希のビームライトが木々の隙間に不審人物をうかび上がらせた。
中肉中背の男であるらしい。このクソ暑い夜にアヤしげなマントを身にまとい、あまたの装飾品でキラキラと乱反射する手元で顔をおおいかくしていた。
「まりる。いてこませ」
瑞希の言葉にまりるが駆けだすと、ビームライトに照らしだされた不審人物がおたおたと周章狼狽した。
「……!?」
花火の炸裂音とかなりの距離とでまったく聞きとれなかったが、なにかさけんだ不審人物は身をひるがえすと闇の中へ走り去った。
「ちょっと待て。あれって……」
あのあからさまに見おぼえのある不審人物は、
「「「「……グラゴダダン?」」」」
異口同音にひとりごちたオレたちはたがいの言葉に耳を疑い、思わず顔を見あわせた。いつの間にか2本腕にもどっていたまりるの元へ小走りで向かい、はだけかけた浴衣をなおしながら朱音さんが提案した。
「とりあえず場所かえよっか?」
だれにも異存はなかった。
3
てなわけで、うちのリビングである。
朱音さんと菜々美ちゃんが、先の軽い戦闘でビーチサンダルをなくして浴衣を汚したまりるの足を洗って着替えさせている間に、オレは買ってきた屋台メシの焼きそば、お好み焼き、たこ焼きを皿に移しかえてリビングのローテーブルへならべた。気づけばぜんぶ粉もんソース味である。
「冷凍餃子でも焼こうか?」
一応、瑞希へたずねてみたが、あれから沈思黙考をつづける瑞希に返事はない。
洗面所からピンクの半そで短パンに着がえてでてきたまりるがあかるい声で云った。
「まりる、お腹すいたるる~!」
「そうだね。菜々美もちょっとお腹すいたかも」
まりるに少しおくれて菜々美ちゃんと朱音さんもやってきた。
こんな時になんだが、あかるいところで見る菜々美ちゃんの浴衣姿もカワイイ。あとで一緒に写真とか撮ってもらえないもんかな?
「いっただっきま~す!」
菜々美ちゃんとならんで腰かけたまりるがお好み焼きにかぶりついた。菜々美ちゃんもお好み焼きを箸でとりわける。
「……で、どっから話をはじめればよいのかな?」
パックの納豆を箸でかきまわしながら朱音さんも席についた。そのまま納豆を焼きそばへオンする。今夜は納豆焼きそばか。まさか、お好み焼きやたこ焼きまで納豆まみれにしないだろうな?
うちへ帰ってくる間、花火大会の喧噪でほとんど口をきかなかったオレたちは、みんなそれぞれ考えていたはずだ。
そして、それぞれ自分でも信じがたい結論を導きだしているにちがいない。
「……菜々美たち全員PCゲーム『フェアモン・バトル』のプレイヤーってことですよね?」
それだけなら別段めずらしいこともあるまいが、ただのプレイヤーがグラゴダダンの姿や名前を知るはずもない。
「惑星アルマーレのリアルな召喚獣戦闘に人間召喚獣として参加してるってことでよいんだよね?」
より正確を期した朱音さんの言葉にまりるをのぞく4人が緊張の面もちで小さくうなづいた。すなわち、オレ、朱音さん、瑞希、菜々美ちゃんである。
こんな身近に〈リア獣〉が3人もいたことにオレは心底おどろいた。
アカネさんのノリなら召喚獣のスカウトに応じてもふしぎではないが、菜々美ちゃんや瑞希までもがうさんくさいスカウトに応じていたとは。
しかも、オレは瑞希がPCゲーム『フェアモン・バトル』をしていることすら知らなかった。




