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ミシュナ  作者:
19/19

隣国

地理のお勉強。

「こんにちは、ツェンニャ姉上、スーラ」


「いらっしゃい、セルデ」


「こんにちは、セルデお兄様」


今日もまた、セルデ様とスーラ様が遊びに来た。


私がお茶を持っていくと、2人は顔を上げる。


「「こんにちは、ミシュナ」」


「はい、いらっしゃいませ」


2人は、いつの間にか私の名前も覚えていた。最初は名前を呼ばれるたびに挙動不審になっていたのだけど、しばらくすると慣れてしまった。ちなみに、リアンにはまた、胆が据わってますね、と呆れられている。


お茶が行き渡ったところで、ツェン姉様が、スーラ様の簪に目を遣った。


「可愛らしい簪ね」


「お母様に頂いたんです。アサイ王国で作られた物なんです」


「細工で有名な土地があるものね」


そう言えば、そんな話を聞いたことがあった。確か、


「金山と銀山があるのよ。その近くに、職人が集まってできた街があるの」


ツェン姉様は、そう言いながら地図を持ってきた。ちなみに、こういう物を持っている姫君はめったにいない。必要ないと思われているからだ。


地図を広げて、私達が暮らすシェルイ王国の南側の隣国・アサイの中央付近をツェン姉様が指差し、セルデ様もスーラ様も興味津々で覗き込んだ。


こうやって、ツェン姉様は少しずつ、色々なことを2人に教えている。


「あなた達も」


私と、近くで控えていたセリファも手招かれて、地図を覗いた。


「この辺りから、金や銀が採れるの」


ツェン姉様は、年少者2人にも理解できる言葉でゆっくりと話す。


指差された場所には、確かに山脈が描かれていた。


「この国はね、この辺りを中心に大きくなったの。最初は小さかったそうよ」


「そうなんですか?」


スーラ様が瞳を瞬かせている。アサイはこの辺りではずば抜けて大きな国だから、小さかった時代が想像できらしい。


「周りの国々と一緒になったのよ。今の大きさになったのは1000年くらい前。アサイができてから、200年くらい経った頃ね」


今度は、セルデ様が瞳を瞬かせる。


「この国より新しいんですね」


「この国は、特に古いのよ」


シェルイは、2000年以上の歴史がある。建国時のことなんてすでに神話で、どこまで本当なのかも不明だ。


「じゃあ、ファージュはどんな国ですか?」


セルデ様が口にしたのは、西側の隣国・ファージュ王国のこと。地図を見ると、シェルイと同じぐらいの大きさだ。


「ファージュに関しては、セリファも知っているんじゃないかしら?」


「へ、え…、え!?」


唐突に話を振られたセリファが目を剥く。


「セリファは、あの国の出身だもの」


「「!!」」


セルデ様もスーラ様も、期待に満ちた顔で、地図ではなくセリファを見つめた。


「えええっと…」


セリファの視線が、隣に立っていた私の方に向けられた。…向けられても困る。


小さく首を振って助けられないと伝えると、セリファは一瞬恨みがましい顔をしてから、こっそり溜め息をついた。


「…小さい頃にいただけなので、あまり詳しくないですが」


「分かってるわ、大丈夫」


あっさりと返されて、諦めたらしいセリファは、口を開いた。


「ファージュは1500年ほど前にできました。初代国王は、南の方の国の王子だったそうです。歌や舞が少し変わっている土地です」


説明できたことにほっとしているセリファに替わり、ツェン姉様が口を開く。


「ファージュは山に囲まれていて、あまり他国と関わらないの。だから、変わった文化ができるのかもしれないわね」


「へええ」


セルデ様が声を上げ、スーラ様はわくわくした顔で地図の東方を指差した。


「このイディア王国はどんな国ですか?ツェンニャお姉様がお嫁に行くんですよね」


「え、そうなんですか?」


セルデ様は知らなかったらしい。驚いたように目を見開く。


「そうよ。イディアの第三王子が、私の婚約者」


納得したように頷いたセルデ様は、スーラ様と一緒に地図を見た。


「小さな国ですね」


スーラ様の感想に、ツェン姉様が微笑んだ。


「そうね、この辺りでは一番小さくて、一番新しい国よ。生まれたのは、700年くらい前」


「小さいけど、豊かで強い国なんですよね」



セルデ様は、なぜか瞳を輝かせていた。


「とても強い軍があると聞きました!」


「イディア王国軍――、通常"光陰八軍"ね」


「ふおお」


そういう話が好きなのか、セルデ様は可愛らしい声を上げて、楽しそうだ。


スーラ様は不思議そうにしている。


「"光陰"?」


「イディアの王国軍は、8つに分かれているの。そのうち5つを"光翼"、残りの2つは軍や国を陰から支えているから"陰翼"と呼ぶのよ。それぞれに1人将軍がいて、王国軍全体の長が"筆頭将軍"」


「見てみたいです!」


変わった名称の軍に、スーラ様も瞳を輝かせて、声を上げた。


「2人が大きくなったら、遊びに来てね。きっとびっくりするわ」


「え?」


「びっくりする?」


悪戯っぽい笑顔とともに告げられた言葉に、2人も、私とセリファも、揃って首をかしげた。


「文官にも武官にも女の人がいるの」


「「え!?」」


「そうなんですか!?」



セルデ様達と一緒に、私まで声を上げてしまう。セリファは声こそ出さなかったけれど、目が丸くなっていた。


基本的に男性が優先されるこの世界では、公職に女性が着くことが許されている国は、とても珍しい。


2人の年少者は、好奇心で、ますます瞳が輝いていた。






セルデ様もセリファ様も帰った後、茶器を片付けていると、一緒に片付けをしていたセリファがぽつりと呟く。


「私、もう少し勉強してみます」


「私も、してみようかな」


そう返事をすると、セリファは楽しそうに笑った。

妙に長くなりました(笑)


ところで、登場人物の丁寧語の対象ですが。

ミシュナ→身分が上もしくは年上(アイリャ、メイ、ミンは別)。

ツェンニャ→身分が上か年上の王族、親しくない年少の王族。

睡蓮宮の侍女達→身分が上もしくは年上。ミシュナに対しては全員丁寧語。

となっています。

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