第3話 全部当たる
「西部穀倉地帯に害虫被害発生!」
伝令が会議室へ飛び込んできた。
重臣たちの顔色が変わる。
「被害は?」
王太子アルベルトが尋ねる。
「推定三割です!」
会議室が静まり返る。
三割。
笑える数字ではない。
農業大臣が汗を拭く。
「早急に対応せねば……」
その時だった。
財務大臣がぽつりとつぶやく。
「セレナ嬢が言っていたな」
一瞬で空気が凍り付いた。
誰も返事をしない。
王太子も、聞こえないふりをした。
しかし事実だった。
追放された監察官令嬢。
うるさい女。
空気を読めない女。
彼女は確かに言っていた。
収穫量が減っていると。
備蓄を増やせと。
農業大臣が慌てて話題を変える。
「害虫程度で王国は揺らぎません」
その時、再び扉が開いた。
「緊急報告!」
また伝令だった。
「南部国境警備隊の帳簿に、不一致が発覚しました!」
財務大臣が立ち上がる。
「何!?」
「実際の配給数と帳簿の人数が合いません!」
騎士団長が眉をひそめた。
「どの程度だ?」
「四十四名分です!」
静寂。
完全な静寂。
全員の脳裏に、同じ言葉が浮かんでいた。
四十四名。
セレナが言っていた数字だった。
騎士団長の顔が青くなる。
会議室の誰も目を合わせない。
数秒後。
王太子が机を叩いた。
「偶然だ!」
誰もなにも言わなかった。
できなかった。
なぜなら、また扉が開いたからだ。
入ってきたのは神官だった。
「聖樹に異変!」
神官長が立ち上がる。
「何枚落ちた!?」
「葉ではありません!根元の樹液が、黒く変色しています!」
全員が絶句した。
黒い樹液。
病を治すはずの神聖なる聖樹が、病気になるなどあり得ない。
だが、会議室の全員が思い出していた。
『聖樹の根元に虫害があります』
追放の日。
最後の報告。
あのうるさい女の声を。
王太子は拳を握る。
ーー初めて。
本当に初めて。
胸の奥で嫌な予感が生まれた。
もしかして。
もしかして。
あいつは正しかったのか?
会議室の窓の外、王国の象徴である聖樹からまた一枚、大きな葉が落ちた。
そして誰も、もう笑えなかった。




