↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能学級  作者: ノア
PR
7/8

第6話 十年前

「澪!」

 澪が地面に倒れた。湊は駆け寄り、傷口を押さえた。しかし血は止めどなく流れ続ける。澪はもう、何の反応も示さなかった。

「澪……」

「彼女が望んだことですよ。殺してくれって」

 横に立っていた夜久野はナイフの血を拭き取りながら答えた。

「……なんで、なんでそんなに平然と殺せるんだ!まだ化物にならずに助かる方法があったかもしれないのに!」

「それを探してる間に皆、殺されますよ」

 夜久野は静かに語った。

「十年前の、異能者による大規模殺傷事件。あの時は四十七人が死亡しました。彼女はそうならないとなぜ、言えるんですか?」

 湊は口ごもった。あの時、自分は彼の側にいたのに何もできなかった。

「…そういえば、あなたも異能者でしたよね」

 夜久野は鋭く湊を睨んだ。ナイフを構えて襲いかかる。

「だからって、何もしていないうちから殺していい理由にはならない!」

 攻撃を躱しながら声を荒げた。

「異能者は全員、近い内に化物になって暴れるんですよ!そして殺される、私の家族がそうだったように!」


――――――――

 赤い服の少年の周りが赤く染まっていく。私はその光景を見ていることしかできなかった。少年はフラフラと歩き出した。

 少年がこの場からいなくなると、子どもの泣き声が辺りを包んだ。それを皮切りに、うめき声や叫び声が溢れた。私はしゃがみ込んだまま立ち上がれなかった。

「パパー。どこぉー!」

 小さな少年が泣きながら横切った。私は家族のことを思い出した。

「お母さん、お父さん…!」

 立ち上がり、自宅に向かって走り出した。

(二人とも、今日は休みで家の中にいるはず……)

 角を曲がろうとすると、足元で水音がした。足を止めた。角の先を恐る恐る覗く。赤い水たまりができていた。そこに私のよく知る買い物バックが落ちていた。私は叫び声を上げていた。


 数年後――

 私は豪華な造りの薄暗い部屋に立っていた。

「異能者を殺せるか?」

 前に座る男は問いかけた。

「殺せます」

「まだ、子どもでもか?」

 少しも迷わなかった。

「はい」

「……君に、仕事を与える」

 男から書類を渡された。そこには、異能を持つ子どもたちを集めた孤島の学校について記されていた。

「表向きは、異能の制御方法を身につけさせ、社会に戻すための学校だ」

「表向き?」

「異能者を危険視しているのは、我々だけではない。しかし、何もしていない異能者を処分することは認められていない」

 男は書類の一枚を指で叩いた。

「だが、化物化し、周囲に危害を及ぼす状態になれば話は別だ。危険個体として討伐できる」

 私は書類に目を落とした。

『対象者の異常進行を促し、危険状態への移行を確認後、処分する』

「……つまり、意図的に化物にするんですね」

「そうだ。表向きは訓練中に起きた事故として処理する」

「…………」

「できるか?」

 あの日の光景が蘇った。隣にいた友人が消えた瞬間。足元に広がっていた両親の血。

「できます」

 私は書類を閉じた。

「化物になった者は、必ず処分します」

「一つ、勘違いするな」

 男は静かに言った。

「君が殺すのは子どもではない。制御不能になった化物だ」

 私はしばらく黙っていた。

「……はい。承知しました」

――――――――


「私の家族も友だちも、あの化物に殺された!」

 夜久野は髪を振り乱しながら叫んだ。湊は拳を握りしめ、黙っているしかなかった。でも、これだけは言わなければいけない。

「……あの人は、俺の兄です」

 湊は呟いた。

「……何?」

 夜久野の攻撃が止まった。

「十年前、あの事件を起こした、化物化した少年は、俺の兄です」

「何だと…?」

 夜久野は目を見開いていた。

「……兄がしたことを許してほしいとは言いません。あなたの家族が死んだことも、なかったことにはできない…」

「だったら――」

「でも、陽介も、斗真も、栞も、幸太郎も、澪も!兄じゃない!兄が起こした事件の責任を、無関係なあの子たちに負わせるのは間違ってる!」

「……罪があるかどうかなんて、関係ないんですよ」

「どういう意味だ?」

「あなたのお兄さんも、化物になる前なら異能を持っている『罪のない子ども』だった。それを放っておいた結果、私の家族は殺された。…なら、次も同じことが起きるまで何もせず、待っていろと言うんですか?」

「……それは」

「ほら。言えないでしょう?」

 夜久野は嘲るように目を細めた。

「斗真君は陽介君を殺した。幸太郎君は栞さんを殺した。あなたは今日、自分の目で見たはずです。…異能者は化物だと」

 湊は今日起こった出来事を思い出した。斗真も幸太郎も、こちらの声に答えることはなかった。いつから、変わってしまったのだろう。湊はふと、あの日のことを思い出した。

「……違う」

「何がです?」

「斗真は、ある日から急に、異能の訓練を熱心にやり始めた。…あんたが何かしたんじゃないのか?」

 夜久野は何も答えない。

「この学校で異能者が殺されてるって噂も……」

 湊は夜久野を睨みつける。

「生徒が化物になるのを待ってたんじゃない。あんたたちが、化物にしてたんじゃないのか?」

「……ええ、その通りです」

 夜久野は頷いた。

「その方が、被害が少なく済みますから」

「ふざけるな!化物になるかもしれないからって閉じ込めて、追い詰めて、自分たちで化物にして……。それで『やっぱり異能者は危険だった』って殺すのか!?」

「……あなたには分かりませんよ。……道を歩いていたら、隣で友だちが跡形もなく消し飛んで、両親は血溜まりしか残らなかった。そんな、人間の気持ちなんて…」

「……分からない。でも、だからって俺は、この子たちが殺されるのを認めるわけにはいかない」

 夜久野が再びナイフを構えた。

「なら、あなたもここで死んでください」

「……断る。まだ優希が残ってる」

 夜久野が地面を蹴った。湊が反応するより早く、腹部に蹴りが入る。湊は転倒し、立とうとするところを夜久野が追撃してくる。

(速い……!)

 何とか腕で防ぐ。ナイフで腕を切られる。

「あなたの異能は、異能が使えない相手には、何もできないんですね」

(まずい。このままじゃ……)

「…あなたの、あなたのお兄さんさえいなければ!」

 湊が避ける。

「私の家族は――!」

 再び踏み込む。突然、夜久野はバランスを崩した。

「っ!?」

 彼女の足元に石が転がった。湊は咄嗟に夜久野の腕を掴み、地面に押さえ込んだ。夜久野はナイフを落とした。

「離せ!」

 夜久野は湊の背中を殴りつけた。湊は近くに落ちていた硬い物を掴んで、殴った。夜久野の力が弱くなり、動かなくなった。

 湊は呼吸を整え、夜久野の体を離した。口元に手をやると、呼吸はあった。湊は胸をなで下ろした。

 ふと下を見ると、写真が落ちていた。それを拾い上げる。そこには、湊のカメラで撮った、何気ない日常が切り取られていた。

(……まだだ。…まだ1人、残っている)

 湊は写真をポケットにしまい、優希の元に足を向けた。


――――――――

 湊がリビングでテレビを観ていると兄が帰ってきた。

「…ただいま」

「おかえり〜」

 兄は自室に入り、着替えてからリビングの湊の横に座った。

「……兄ちゃん、何か元気ない?」

「……今日、体育があって疲れただけだよ」

 二人は黙ってテレビを観ていた。

「……お前が近くにいると、何か落ち着くな」

 兄は静かに呟いた。

「そう?」

「お前、変な力持ってるんじゃないか?」

「そうなのかな?そうなら兄ちゃんとお揃いだ!また今度、兄ちゃんの念力見せてよ!」

「……また今度な」


 湊が修学旅行に行く前日の夜。いつものようにリビングで2人並んでテレビを観ていた。

「修学旅行でお土産いっぱい買ってくるからね!」

「…うん」

 兄はどこか上の空だった。

「……兄ちゃん、大丈夫?」

「……大丈夫」

「…明日早いから、もう寝るね。おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

 湊はリビングの扉を閉めた。兄はずっと弟の方を見ず、俯いていた。それが兄を見た最後だった。

 修学旅行の最終日。旅館のテレビに、見慣れた街が映っていた。『大規模殺傷事件』という文字が画面に表示されている。その日のうちに、兄が死んだと知らされた。

――――――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。