第4話 大丈夫
その後、六人は校舎に戻ってきた。夜久野は報告をするためにと自室に行った。
湊は陽介の部屋に入り、ベッドに寝かせた。彼のあの元気な声は返ってこない。
「…陽介……」
生徒たちは食堂に集まった。湊も合流し、いつもの席に座る。イスが二つ空いたまま。優希はすすり泣き始めた。
「…陽介さん……」
「……みんな、何か食うか? 今日はまともに飯食ってないだろ」
湊は厨房に入っていった。栞も立ち上がり、
「お茶、淹れてくる」
厨房に入り、コップを乗せたお盆を持って戻って来た。机にそれぞれのコップを置く。
「あっ…」
お盆には二つコップが残った。栞は何も言わず、鼻をすすりながら厨房に戻った。
「できたぞ」
湊はおにぎりが乗った大皿を机に置いた。栞もイスに座った。
「無理をしてでも食え。力が出ないぞ」
湊はおにぎりを掴み、頬張った。
栞、優希、澪はおにぎりを掴み、ゆっくりと食べ始めた。優希は時折鼻をすすっている。いつもならたくさん食べる澪も、今日は一口食べては手を止めていた。幸太郎は座ったままうつむき、何も喋らず微動だにしなかった。
三人はおにぎりを食べ終わり、静かに席を立った。
「おやすみ、ゆっくり休めよ。」
三人はうなずいたり、小さくおやすみなさいと言って食堂を出た。
食堂には湊と幸太郎が残された。幸太郎はおにぎりに手を付けていなかった。
「…幸太郎、食わないと倒れるぞ」
湊は幸太郎の前にお皿を置き、隣に座った。
「…俺が、もっと早く、探していれば……。斗真も、おかしくなって…」
湊は幸太郎の背中をさすった。
「幸太郎のせいじゃない」
「……っ」
幸太郎の嗚咽が静かな食堂にこだました。
「…もう、大丈夫です。先生、ありがとうございました」
幸太郎は目の周りを赤くしながら顔を上げ、湊にそう言った。
「…大丈夫、か」
「先生?」
湊はゆっくりと口を開いた。
「……昔、身近な人の『大丈夫』を、そのまま信じたことがあってな。……後になって、本当は全然大丈夫じゃなかったって分かった…。だから、無理に大丈夫だって言わなくていい」
「はい。……全く問題ない、とは言えないですけど、少し落ち着きました。何でか、先生が近くにいると安心します。…じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、また明日な」
幸太郎は席を立ち、自室に戻った。
(俺が近くにいると落ち着く、か。あの人にもよくそう言われたな……)
過去のことを、少し思い出していた。しばらくしてからおにぎりをラップで包み、それを持って夜久野の自室に向かった。
夜久野の部屋の前に立つと中から彼女の話し声がした。内容までは聞き取れなかった。湊は扉をノックした。
「はい。あ、湊先生ですか」
「これ、夜食にどうぞ。これからのことなんですが、本島は何と?」
「しばらく船は寄越せないそうです。」
「生徒が死んだのにですか!?」
「私に言われましても…」
夜久野は苦笑を浮かべ、眉を下げた。そして腕時計を見て、
「すみません、まだ本島への報告が残っているので、失礼します。おにぎり、ありがとうございます」
扉を閉めた。湊は扉の前でため息をついた。
湊は足早に資料室に向かい、朝見ていた資料を取り出した。やはり、赤い目についての記述がある。さらにページをめくると、あるページで手を止めた。一人の少年の写真と、その名前。湊はしばらくそのページを見つめていた。写真に写る顔を、見間違えるはずがなかった。
「……やっぱり、そうだったのか」




