↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能学級  作者: ノア
PR
3/8

第2話 異能者たち

 翌日、湊の最初の授業が始まった。生徒たちは校舎から出て、広い校庭に集まっていた。湊もジャージに着替え、手には革手袋をはめた。

「さて、今回はみんなの異能を見せてもらおうかな」

「はいはい!最初はおれからね!」

 日に焼けた少年、陽介は今回も真っ先に手を上げた。湊の返事を待たずに立ち上がった。手を伸ばしたり屈伸したりと軽くストレッチするとしゃがみ込み、跳んだ。軽く三メートルは跳んだように見えた。湊が目を丸くしていると陽介は危なげなく着地した。

「見た⁉おれすごくない⁉」

「すごい。陽介は身体強化なんだな」

「スゲー速くも走れるんだぜ!」

 嬉しそうに笑った。


「次は幸太郎が見せてやったら?お前のすげぇじゃん!」

 陽介は隣に座る眼鏡の少年の肩を組み、言った。

「じゃあ、次は幸太郎に頼もうかな」

「わかりました」

 幸太郎は立ち上がった。

「俺は空気の壁を作ることができます。一個しか作れないですけど」

 手のひらを前に向けた。

「ここに作りました」

 湊がそこへ手袋を着けた手を伸ばすと、見えない壁に触れた。

「おぉ、こんなこともできるのか…。強度はどのくらいなんだ」

 コンコンと壁を叩き、尋ねた。

「そこまでは、まだ分からないです」

「おれが試してやろうか!?」

 陽介が拳を構える。

「お前は黙ってろ」


 次はポニーテールの少女、栞が異能を実演した。

「わたしは物の記録を見ることができます」

 栞は湊の袖をつまむように触れ、目を閉じた。数秒後、ゆっくり目を開く。

「先生の部屋の机には今、『教育の基礎』って本が開いたまま置いてありますね」

「よくわかったな、朝読んでいたんだ。記録を見る、か。便利そうだ。どこまで遡れるんだ?」

「半日くらいですね。遡るほど見るのに時間がかかります。物体が過去に置かれていた場所と、その周辺の光景を見ることができます」

 栞が答えると陽介がまたしても声を上げた。

「あ、そうだ栞!今朝、お気に入りのペンが行方不明になったんだ。おれのノートとか触って見つけてくれよ!」

「授業終わってからにしろ」

「自分で探しなさい」

 幸太郎と栞にあしらわれた陽介は目に見えて肩を落とした。元の位置に座った栞は

「…後で見てあげるから」

 と小声で言うと、陽介はぱっと顔を明るくした。


「次は、斗真。見せてくれ」

 次は金髪の少年、斗真が面倒くさそうに立ち上がった。小石を一つつまみ上げた。その小石を軽く上に投げると、落ちて来ず、そのままの位置で浮いている。

「物を浮かせる異能か?」

「違う」

 そう言うと、小石が目にも止まらぬ速さで落ちてきた。

「オレは、重力操作ができる」

 小石は地面にめり込んでいた。


 次は短髪の少女、澪が異能を見せた。

「私は生命探知です。」

「生命探知?」

「目を閉じて、生き物がいたら光って見えます」

「へぇ、どのくらい遠くまで分かるんだ?」

「あんまり遠いと無理です」

「今、この校舎周辺に動物いる?」

 澪は目を閉じた。暗闇の中にいくつもの小さな光が浮かぶ。

「……動物が何十匹か、います」

「種類は分かる?」

「そこまでは」

 澪はそう答えると、元の位置に戻って座った。


「最後は優希だな」

 次は小柄な少年、優希の番になった。

「ぼくは、存在感を薄くできます…」

「見えなくなるの?」

「いえ、見えてはいます。でも、気付かれにくくなります」

 そして実演。湊が優希から一度目を離す。

「じゃあ――」

 湊は振り返ると、言葉を止めた。

「……あれ?優希は?」

「ここです……」

「うわっ!」

 優希は湊のすぐそばに立っていた。校庭に陽介の笑い声が響いた。

「先生、大袈裟だなぁ」


「最後!先生の見せてよ!」

 陽介は目を輝かせていた。他の生徒も湊をじっと見ていた。

「…わかった。期待するなよ。幸太郎、ちょっとこっちに来てくれるか?」

 湊は幸太郎を呼び、空気の壁を作らせた。そして手袋を取り、壁に触れた。手は壁に遮られることなく通過した。

「あれ?壁は?」

 幸太郎は不思議がっていた。

「俺の異能は、手のひらで触れた異能を消す力だ。みんなと比べたら大したことないだろう?」

「へぇー、そんな異能あるんだ」

 陽介は感心していた。


 全員の異能を見せてもらい、湊の最初の授業は終わった。

(みんな、面白い異能を持ってるな)

 教師用の教室に戻ると夜久野がいた。

「お疲れ様です。優秀な子たちでしょう?」

 と夜久野は微笑んでいた。

「はい。みんな、個性があっておもしろい、いい子たちですね。これからが楽しみだ」

「…そうですね」



「腹減ったー!」

 本日最後の授業が終わり、陽介、栞、澪は食堂にやって来た。

「…何かいい匂いがする!」

 扉を開けると、スパイスと煮込んだ肉の香りが鼻腔をくすぐった。厨房では、大鍋いっぱいのカレーが湯気を立てている。その横には、きつね色に揚がったカツが並んでいた。湊が厨房から顔を出した。

「お疲れ。飯できてるぞ」

「カツカレー!?やった!」

 陽介は食堂に駆け込んだ。

「湊先生?今日の夕食当番は私と澪さんじゃありませんでしたか?」

 栞は首をかしげた。

「夜久野先生の授業が終わるまで時間があったから、作ってみたんだ。食べてくれ」

「やった!おれ、みんな呼んでくる!」

 陽介は食堂を出て、廊下を目にも止まらぬ速さで駆けていった。

「…あいつは当番じゃないのに、何で来たんだ?」

「お腹が空き過ぎたそうです。いつもご飯ができるまで、お菓子を貪ってますよ」

「アイツらしいな」


 数分も経たず、陽介は戻ってきた。

「お待たせー!早く食べよ!」

 遅れて幸太郎、斗真、優希、夜久野も食堂にやって来た。

「別に呼びに来なくても行くっつーの」

 斗真は文句を言いながら入ってきた。

 全員が集まると、湊と栞と澪は料理を盛り付け、次々と食卓に並べていった。

「カツは一人一枚だぞ」

 料理が全員に行き渡ると、陽介が真っ先にカツカレーを口いっぱいに頬張った。

「うまっ! 先生、毎日飯作ってよ!」

 陽介が最初に声を上げた。

「食事中にでかい声出すな。でも、先生の料理、美味しいです」

 幸太郎は陽介をたしなめつつ、そう言った。優希も同意するように小さくうなずき、もくもくと食べていた。

「先生って料理上手なんですね。今度教えてください」

 栞も続いた。澪は黙って食べていたが、早くも半分ほど減っていた。

「すごく美味しいです。どこかで料理の勉強されたとか?」

 夜久野は湊に問いかけた。

「学生時代のバイト先で習いました。みんなにそう言ってもらえてよかった。斗真はどうだ?」

「…まぁまぁじゃねぇの」

 そう言いながら、斗真の皿にはほとんどカレーが残っていなかった。

「そうか、そうか。今日は気合い入れてたくさん作ったからな、おかわりもあるぞ!」

「やったー!」

 陽介は立ち上がった。同時に斗真も立ち上がっていた。

「何だよ、やっぱり斗真も美味しいって思ってたんじゃん」

「うるせぇ!お前いっつも余り物おかわりしてんだからたまには俺に譲れ!」

「今日は今日の腹が減ってるから無理!」

 二人が言い争いながらおかわりのある鍋を開けると、量がかなり減っていた。

「「少な!」」

「早く取らないからだぞ〜」

 湊は笑みをこぼしながら優希の方を見た。

「優希お前、異能で…」

「ごめん!でも、澪さんがやれって…」

 優希と栞と幸太郎の皿にはカレーが追加されていた。そして澪の皿には、山盛りご飯と、それを覆い隠すほどのカレーが盛られていた。

「とっとと取らないほうが悪い」

「澪さん、それ、全部食べれるの?」

 夜久野は隣に座る澪に問いかけた。

「問題ないです」

 スプーンを止めずに答えた。山盛りご飯は見る見る減っていく。

「…小柄なのに凄いわね…」

 後ろでは陽介と斗真が取り合いのじゃんけんをしていた。賑やかな食事だった。


 片付けは湊と片付け当番の陽介、優希でやった。

「あれ、澪さん、まだ食べてたんですか」

「うん。食後のお菓子」

「…よく食べますね」

「お菓子は別腹。優希もいる?」

「じゃあ、いただきます。ありがとうございます」

「何?お菓子?おれにもちょうだい!」

 陽介が厨房から出てきた。

「…はい」

 澪はお菓子を一つ渡した。

「何その不服そうな顔!でもありがとう!」


「こっちはおれが拭いておくから、優希は厨房の方お願いできる?」

「わかりました」

 厨房に入ると湊が皿洗いをしていた。

「手伝います」

「優希か、ありがとな」

 二人はしばらく無言で皿を洗う。

「優希、洗ったやつ拭いてくれるか?」

「はい」

 湊が洗った皿を優希に渡す。優希は丁寧に水気を拭き取っていった。

「優希は静かだな。みんなといると疲れないか?」

「…少し。でも、嫌じゃないです」

「そうか」

「前は、一人でいる方が楽だったんですけど……。ここに来てからは、一人だとちょっと寂しいです」

「そっか」

 食卓でお菓子を食べていた澪が、ちらりと優希を見た。

「……ごちそうさま。おやすみ」

 澪は席を立った。

「おやすみー!」

「おやすみなさい」

「おやすみ。また明日な」


「先生、こっち終わったー!」

 陽介が布巾を掲げながら声を上げた。

「早いな。ちゃんと全部拭いたか?」

「拭いた拭いた!」

「……あそこ、まだ汚れてます」

「優希、細かい!」

 陽介は「どこだよ」と言いながら、布巾を持って優希の指差す方へ戻っていった。



 ある日の休日、朝食を終え、澪と優希が席を立とうとした。すると陽介が

「なぁ!みんなで釣り行かない?」

 と声を上げた。

「倉庫の片付けしてる時に釣り道具見つけたんだ!数本しか竿なかったけど」

「いいじゃん、行こうぜ」

 斗真が真っ先に賛成した。

「釣りか。私やったことない」

「俺も」

「オレが教えてやろうか?」

「斗真は何でそんなに得意げなの?」

「澪と優希はどうする?」

 幸太郎が尋ねると

「僕も行きます。」

と優希は答え、澪も頷いた。

「よし!みんなで行こう!おれ、釣具取ってくる!」

 陽介が駆け出し、みんなで海釣りに行くことになった。

 玄関前に来ると湊がいた。

「お、皆揃ってどこ行くんだ?」

「釣り!先生も一緒に行く?」

「いいな。少し待っててくれ。準備してくる。」

 数分後、カメラを持った湊が戻ってきた。

「お待たせ、行こうか」

「先生のカメラ、立派ですね」

「写真が趣味なんだ。みんなの写真たくさん撮ってやろうと思ってな」

 校舎を出て、しばらく歩いていると、

「ここがいいんじゃね」

 と斗真が決め、釣りが始まった。


 空は気持ちよく晴れ渡り、穏やかな海面が陽の光を反射してきらきらと輝いていた。幸太郎、斗真、陽介が釣り糸を垂らしていた。

 数分後――

「っしゃあ!また釣れた!」

「斗真さん、すごいですね」

「ヘヘっ。釣りは好きだからな!」

 斗真のバケツは魚で一杯になっていた。

「この魚、どこから来て、どこに向かおうとしていたんですかね」

 優希はバケツを覗き込んで呟いた。辺りを歩いていた澪は優希の隣に立った。

「優希は釣らないの?」

「ぼくは釣れた魚見てる方が好きなので…」

「そうなんだ」

 澪はまたフラフラとどこかに歩いていった。

「いいなー。おれは全然釣れねー!」

 陽介はわめき出した。

「下手くそ。やかましいからじゃないのか?」

「お前なんでそんな上手いんだよ。」

「ガキの頃、よく親父に連れてってもらってたからな。妹と一緒に」

 斗真は鼻を掻きながら答えた。

「斗真には妹がいるんだ、意外」

「意外ってどういう意味だ!?」

「はいはい、はしゃぐのはそのあたりにして。魚を釣り上げたかっこいい写真撮りたいから、斗真、もう一度釣ってくれ!」

 湊はカメラを構えた。

「…仕方ねぇな」

 斗真は釣り糸を垂らした。隣の陽介は

「飽きたー!」

 と言い、釣り竿を栞に差し出していた。

「栞、交代」

「陽介、飽きるの早すぎない?」

「釣れないんだもん!」

「はいはい」

 陽介は栞に釣具を渡し、木陰に寝転んだ。

「ここ、風が気持ちいいな〜」

「もう釣りはいいのか」

 湊は木陰にやって来た。

「やっぱりおれは体動かすことの方が好きだから。釣りみたいに動かないことは苦手だ」

「陽介はこのクラスで運動神経が一番だもんな。何かスポーツやってたのか?」

「陸上やってた!今でも毎朝走ってる!」

「なるほど、すごいな」

「先生も一緒に走る?」

「…俺は朝、苦手なんだ…。遠慮する」

「そっか。……朝、走ってると、この時間、眠くなる……」

 陽介はあくびをすると、目を閉じた。

「やった。釣れた…!」

「栞さん、すごいです!」

 栞は早速小さな魚を釣り上げた。

「初めてやったけど、釣れたら案外楽しいのね」

 澪は釣りはせず、周囲をフラフラと歩いていた。時々立ち止まっては、咲いている花を見たり、枝に止まっている鳥を見ていた。そして、釣り糸を垂らしている幸太郎の横に立った。

「…そこ、魚いっぱいいるのになんで釣れないの?」

 バケツに魚は一匹もいなかった。

「………」

「オレが教えてやろうか?」

「うるさい!」

「そんなだから釣れねぇんだよ!」

 島に子どもたちの笑い声が響いた。

「そうだ!記念にみんなで写真撮ろう!」

 湊は皆に声をかけた。

「陽介、起きろ〜」

「……何?写真?撮ろう撮ろう!」

 陽介は飛び起き、皆の輪に加わった。

「よし、撮るぞー!」

「先生もこっち来て写ろうよ!」

 陽介が声を上げた。

「そうですよ」

 幸太郎もそう言い、栞もうなずいている。

「そっか…。ちょっと待っててくれ」

 湊は枝にカメラを乗せ、タイマーをセットした。湊は小走りで皆の横に並んだ。

 陽介が満面の笑みでピースをし、その隣では斗真が面倒くさそうな顔をしている。優希は控えめに笑い、澪はいつもと変わらない無表情だった。

シャッター音が鳴った。

「…よし、撮れてるな。現像して皆に配るよ」

「やったー!楽しみ!」

 昼過ぎになり、皆で釣具を片付け、校舎に戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。