第1話 孤島の学校
よく晴れた空の下、一隻の小さな船が波を切って進んでいた。潮風が甲板を吹き抜け、時折、船体が小さく揺れる。その船には、船長の他に一人の青年が乗っていた。青年は手帳をめくり、ここ数ヶ月で起こった出来事について思い出していた。
彼は新米の教師だった。ある噂の真相を確かめるため、孤島にある学校への赴任を希望した。まさか本当に許可が下りるとは思わなかった。何ヶ月も返事がなく、諦めて別の学校への就職を決めた矢先だった。三月末、自宅に封筒が届いた。赴任を認めるという連絡だった。彼は決まっていた就職先を蹴り、この島への赴任を選んだ。
時計を見やると、到着時間が近くなっていた。立ち上がり、甲板に出る。遠くに島の影が見える。その島が目的地だった。
ようやく島に到着した。木々が生い茂り、鳥のさえずりが聞こえてくる。青年は荷物を手に、この島で唯一の学校に向かった。
この学校は、人口のごく一部に現れる特殊な力――「異能」を持つ子供たちの訓練校として建設された。
木々に囲まれた凸凹道をしばらく歩く。舗装されていない道は歩きにくく、荷物を持つ腕が次第に重くなってきた。
息を切らし、額に汗を浮かべながら歩いていると、ようやく目的の学校に辿り着いた。『異能者特別訓練校』と彫られた門が青年を迎える。そこは、教室が数部屋しかない小さな学校だった。
校舎に入ると、正面の棚に一枚のメモが置いてあった。『第一教室に来てください。』という伝言と校舎の見取り図が描かれていた。
そのメモに従い、第一教室へと向かった。見取り図のおかげで迷わずに辿り着いた。中から声が聞こえてくる。カバンから革手袋を取り出し、はめた。
「…よし」
深呼吸を一回してからノックすると、扉が開かれた。長い髪を後ろでまとめた二十代後半くらいの女性が立っていた。
「お待ちしてました」
彼女は教室にいる生徒たちに少し待つように言うと廊下に出て、青年と向き合った。
「はじめまして、夜久野と申します。これからよろしくお願いします」
柔らかく微笑み、頭を下げた。
「私は湊と申します。こちらこそよろしくお願いします」
「困ったことがあったら何でも聞いてくださいね」
互いに挨拶を交わし、生徒が待つ教室に入る。中には高校生くらいの、六人の子ども達がいた。夜久野が彼らに湊を紹介した。
「今日からこの学校の先生になる湊先生です」
「はじめまして、湊です。よろしくお願いします!」
「湊先生には異能の使い方や運動面のことを教えていただこうと思っています。では、何か質問ある人はいますか?」
夜久野が問いかけると元気な声が教室に響いた。
「はいはい!湊先生って何歳?おれらとそんなに変わらないよね?」
背の高い、日に焼けた活発そうな少年が手を上げながら質問した。彼の前の席に座る眼鏡をかけた少年が
「おい、初対面でいきなりそれは失礼だろ」
と振り向き、諌めた。
「大丈夫だよ。俺は二十二歳で教師になりたてだ。分からないことだらけだし、みんなにも迷惑かけると思うけど、よろしくな」
頭を下げるとまばらな拍手が起こった。
「じゃあ、先生の異能って何?」
日に焼けた少年は拍手が止むと、質問した。
「俺の異能は…」
「どうせ、大した能力じゃねぇだろ」
金髪の少年が言った。
「そうだね。俺の異能は、みんなと比べたら大したものじゃないからまだ秘密にしておこうかな」
湊は笑って答えると、日に焼けた少年は
「えー!」
と不満そうな声を上げた。
「先生が秘密にしてどうするんですか…」
ポニーテールにした少女が呆れたように呟く。その隣では、短髪の少女がこの騒ぎなど気に留めず本のページをめくっていた。湊は教室の隅に座る小柄な少年と目が合った。少年は驚いたように、すぐに視線をそらした。この六人がこの学校の全校生徒だった。




