↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
89/95

16 鴨川高校 雨乞い 5

 大きな太鼓の音が鳴り始める。

 威勢のいい太鼓の音とともに、五匹の龍が現れた。

 太いしめ縄で作られた五龍が、池の周りに散っていく。

 五匹の龍は長い身をつなぎ、池をぐるりと囲む一つの輪になった。

 結界の完成だ。

 これは、小町さんの教えを受けたソラが企画したものだった。

 すでに神泉苑の周囲には、小町さんによるお札が要所要所に置かれている。

 陽の気が満ちたところで五龍のしめ縄による結界を完成させ、龍王様を迎える。

 その準備が整ったはずだった。

 ソラは、ここまで苦労して積み上げてきた陽の気を思った。

 行列で盛り上げた京の街。歌と踊り。二十万人を超える人たちの、この世界を思う願い。

 人を思う願い。これだけあれば……。

 そう、これで完成するはずだった。

 ……なのに。

 小町さんの様子がおかしい。

 ソラは、舞を続ける小町さんに、横から問いかけた。

「どうしたの? 小町さん。あとは小町さんの雨乞いの歌で完成だよ」

「だめ。まだ場が整わない。これでは龍王様は降りて来られない。何か変だわ」

「まだ、陽の気が足りないの?」

「いや、それは十分……池の方よ」

「分かった。すぐ確かめるから、もう少し頑張ってね、小町さん」

 ソラはスケッチブックの中で待機してもらっていた、池の主様に声をかけた。

「鯉さんたちで、もう一度、池の中を調べて。おかしなことがないか確かめて。お願い」

 金色の鯉は、すぐに他の鯉たちへ指示を出した。鯉たちが池の中へ散っていく。

 ――大丈夫かな。

 小町さんも、そんなに長く持たせられない。

 せっかく集まった陽の気も、いつまでもつか分からない。

 焦る。

 けれど、時間はどんどん過ぎていく。観客も、この間の長さに待ちくたびれ、ざわつき始めた。

 もう、これ以上引っぱれない。

 その時だった。水面に、一匹の鯉が顔を出した。

「主様……?」

 ソラは駆け寄る。 

「水の湧き口に何かあると言っている。どうやらネズミの死骸のようだ」

「えっ……」

 ソラは、すぐにパンの姿を探した。

「まさか、パンが……」

 全身から血の気が引いていく。

「石に括られていて、それが他の石の下にある。鯉のわしらでは、どうも動かせないようだ」

 ためらっている暇はなかった。

「すぐ行くわ!」

 ソラは池の中へ足を踏み入れた。

 水の湧き口は、前に調べてわかっている。岸からそれほど離れていない。

 ソラは夜の池へ、足を取られながら入っていく。ジャバジャバと水をかき分ける。

 数歩進むだけで、水深は一気に深くなった。

 確か、このあたりだ。

 いやもう少し先か。

 水は首元まで来ていた。

 ソラは足先で水底を探る。

 あった。湧き口だ。石が沢山ある。

 足で探るだけでは分からない。

 時間がない。

 ソラは思い切って、暗い水へ頭を沈めた。

 夜の水中は闇そのものだった。は両手で水底を探る。石がいくつもある。

 石の下だと言っていた。

 湧き口から、水の流れを感じる。一際大きな石があった。その下を両手で探ってみる。

 何かが手に触れた。左手に何か丸いもの。

 右手には、大きな石と、その下の柔らかな感触。

 ぞくりとした。

 ……動物?

 ソラは思い切って、それを引っ張り出そうとした。

 その瞬間だった。

 両手で石を強くつかんだ途端、冷気が全身を貫いた。

 恐ろしいほどの冷たさだった。体中の熱が一気に奪われていく。

 それでも手を離さない。

 水中で足を踏ん張り、石を持ち上げる。息が苦しい。

 もう限界だった。

 それでも――

 取れた! 

 ソラは大きな石を抱きかかえるようにして、がむしゃらに水底を蹴った。

 水面から顔を出す。

 暗い水の中で咳き込みながら、岸を目指す。

 両手で抱えた石は、見かけ以上に重かった。そして、氷のように冷たい。

 体中の熱と力を奪っていく。

 触れている手が痛い。やがて、感覚さえなくなってきた。

 夏なのに身体が震える。腕に力が入らない。石を持つ手が下がっていく。

 水中で足がもつれた。よろめく。

 危ない!

 倒れそうになったソラの腕を、暗闇から伸びてきた手がつかんだ。

「早く、こっちだ!」

 聞き覚えのある声。柊くんだった。

 近くで焚き火を囲んでいた彼は、予定の時が過ぎても始まらない池で、何かが起きたのを感じた。

 心配になり、一人見に来てくれていたのだ。

「柊くん、これを結界の外へ、早く!」

 ソラは、両手で抱えていた石を彼に託した。

「分かった」

 ただ事でない様子を察した柊くんは、それを受け取るとためらわなかった。

 岸に戻る。そのまま龍のしめ縄をくぐり、結界の外へ石を投げた。

 ゴロリ。石が転がり、篝火に照らされる。

 そこには文字が書かれていた。

 そして、縄で括られたネズミの死骸。

 闇の中、真っ白なハツカネズミが不気味に横たわっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 やはり邪魔者がいる。正々堂々と戦えないのか。そんなもの弾き飛ばしてやる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。