16 鴨川高校 雨乞い 4
「さあ出番だよ、小町さん」
ソラは、目の前の絵に向かって声をかけた。
この日のために、時間をかけて描いた水彩画版の小町さんだ。
「ええ。昼からの行列、歌、そして、たくさんの民の声。人を思い、世を思う願い。みんな、よくやってくれたわ。ネットというのは、うまく使うと、人の熱をこんなに集めることができるのね。ちょっと驚いたわ。これだけの陽の気、龍王様にもきっと……」
小町は微笑んだ。
「我も力の限り、舞い、歌いましょう」
ソラは、小町さんの絵を、カメラの前に丁寧にセットした。
あとは、映像担当に合図するだけだ。
みんなが願いを叫んでは、短冊を火にくべていく。
映像班は、炎に照らされたみんなの顔をライブカメラにとらえていた。
「雨が降りますように」
「このままじゃあ、米が育ちません。神様お願いします。雨を降らせてください」
「テルテル坊主逆さにして毎日お祈りしてます。どうか雨を降らせてください」……
藤村翔。体型がちょっと健康すぎる映像リーダーが、ソラの合図で映写機のカバーを開けた。
きらびやかな光が、夜に飛び出す。
スクリーンに、小町が投影された。
鴨高生は、小町の絵を何枚か描いて、それをスライド風にする。それぐらいに思っていた。
だが。
そんなみんなの予想を超える小町さんが現れた。
静かな音楽とともに、幾つもの灯火に囲まれた黒々とした池の上に、美しい水彩画、極彩色の小町さんが浮かび上がる。
十二単は、燃え上がるような紅のグラデーション。
小町さんの姿が池の水面に反射し、鮮やかにきらめいた。
長い黒髪。凛とした立ち姿。
見る人たちの視線が、一斉にそこに集まる。
そして次の瞬間。
小町さんが動いた。
柔らかな風のような舞いだった。
生徒をはじめ、観客から感嘆のため息が漏れる。
小野小町。本物の雨乞いの舞だ。
少し離れたところで、こちらが見える藤村くんだけが目を丸くしている。
「あれっ、なんで動画なの?」
別の意味で驚いていた。
これがあるので、いろいろ理由をつけて、ソラはわざと少し離れたところに小町さんをセットしていた。
――藤村くん、後で何とかごまかさなくっちゃ
ここまでのネットの反応は、心配していたとおりだった。
閲覧数は大きく落ちている。
甲子社の儀式の半分ほど。
だが、小町さんの登場で、数字がみるみる上がっていった。
――みんな、あと半分だよ。頑張って、小町さん!
ソラは、心の中で念じながら、スクリーンに浮かぶ小町の舞を見上げていた。
全校生一人ひとりが、汗をかき、喉をからしながら、願いを天へ放つ。火に願いを託す。
その池の中心で、小町さんの舞が、たおやかにあたりを満たし、つないでいく。
短冊を読む声も終盤に差しかかり、苦しそうな様子が増えてきた。
それでも。
ついに、鴨高生は全員でやりきった。
すべて読み終えたクラスの竹笹が、次々と火に投じられていく。
一際大きく竹がはぜた。
バチバチッ!
やり切った生徒たちから歓声が上がる。
小町さんは、その間ずっと踊り続けていた。さすがに、少し疲れが見えてきた。
さあ、仕上げだ。




