↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/95

16 鴨川高校 雨乞い 3

 神泉苑にすべての行列が到着した。

 九つの鉾と竹笹が、池の周りを囲むように位置につく。

 ここまでのネット勝負は、残念ながら甲子社と比べてもかなり差がついていた。

 だが、勝負はここからだ。何より、雨を降らせなければならない。

 それができなければ、すべてが終わる。

 儀式の開始を前にして、もう一つ気掛かりがあった。

 天見が、あれからも何度も泉さんに電話している。それでも、泉さんが出なかった。

「……大丈夫かな」

 俺に携帯を返す天見の目は、遠くを見つめていた。

 泉さんのこと。トビのこと。そして、これから始まる雨乞い。

 そんなすべてを胸の奥へ押し込み、天見は儀式を成功させることだけに集中しようとしていた。

 今にも折れてしまいそうに見える。それでも、彼女の目には迷いがなかった。

 陽が沈み、宵闇が京の街に降りてくる。

 先週の成功もあって、観客は多い。街の人たちは祭り気分で集まって来ていた。

 南條が配置についたみんなを見渡し、声を上げる。

「みんな、行きます!」

 合図の手が上がる。

 篝火に火が入った。

 生徒たちが、池の周辺から路上にまで置かれたガラスの器に灯りを入れていく。

 色とりどりのガラス瓶に灯された灯りが、池をぐるりと囲んだ。

 宵闇に浮かび上がるその風景に、観客から感嘆の声が上がる。

 灯りは境内を超え、御池通りにまで千近く置かれている。

 これを空から見れば、星の川に浮かぶ池のように見えるはず。狭くなった神泉苑に、かつての広大さをイメージさせる。南條の考えた演出だった。

 無数の灯りに囲まれた池で、みんなの歌が始まった。

 鴨高生たちは輪になって空を見上げ、声を合わせる。

 ――ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン♪

「雨降りの歌」をみんなで楽しく歌い、踊る。

 ――ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン♪

 このフレーズを間奏にして、二曲目は「雨に唄えば」。

 ここからは、雨にまつわる歌の大合唱だ。

 みんなで選んだ雨の歌を、天へ届けと全校生で歌う。

「さあ、みんな、雨を願って歌おう! 共に歌おう!」

 日野会長が、集まった観客、そしてネットに向かって呼びかけた。

 のってきた生徒たちは踊り出した。観客たちまで巻き込み、歌の輪が波のように広がっていく。

 みんなの知っている雨の歌が次々と歌われ、声はどんどん大きくなっていった。

 歌声が空高く広がり、京の夜空に響き渡る。

 みんなで楽しく盛り上がる歌声。これが鴨高の考える、天への祈りだった。

 日野が、大きく呼びかけた。

「難しいことはできないけど、私たちはこの街が好き! そんな街に、雨よ降れ~!」

 歓声が上がる。

「さあ、みんな歌おう! どこまでも高く、この声を届けよう!」

 二年生たちのソーラン節。そして誠吾たちが突然調子に乗って始めたコサックダンス。

 歌や踊りが、かがり火に照らされた池の前で披露される。

 会場はやがて心を一つにして歌い、踊った。歓声と掛け声があふれ、たくさんの笑顔が灯火の中で揺れている。

 最後の歌が終わる。

 池の周り、クラスごとに高く薪を積み上げられた焚き火台に火が入れられた。

 バチバチと音を立てて、九つの火柱が大きく燃え上がる。

 その周りに、鉾を掲げた竹笹とともに各クラスの生徒が集まった。

 燃え盛る炎が、みんなの顔を赤く照らす。

 生徒たちはそれぞれが手に持った「願いの短冊」を、一枚ずつ声高らかに読み上げ、それを火に投じていった。

 一枚一枚。一人ひとりの願いを。

 このやり方について、生徒会では大いに悩んだ。

 願いの短冊が集まりすぎたからだ。

 京都中の学校、保育園、子どもたち。駅前で集めたもの。そしてネットで募集したもの。

 雨乞いに向けた短冊は、なんと二十万を超えていた。

 特にネットには、全国から多くの雨乞いの願いが集まった。

 それだけ、今、不安の中にある人たちが多いということだった。

 中には、感染症や不穏な世の中を嘆く言葉も少なくなかった。

 その短冊を一つ一つ読むのか。

 生徒会では意見が分かれた。

「願いは、そっと燃やすだけでいい」という意見。

「いや思いは声にすることが大事だ」という意見。

「考えてみろよ。先生の長い挨拶、みんな聞いてないだろ。そんなの無理だよ。ネットなんか、すぐ飽きられるぜ」

 野球部キャプテンが強い口調で言った。

「でも、昔から言霊信仰っていうのがあって、声にすることが大事なんです。一人の声を言葉にすること。そして、それを誰かに伝えるってことは、遥か昔から、みんなが思う以上に大きな意味があることなんです」

 小町さんからまじないのことを教わっている天見は、その大切さを何とか伝えようと懸命に話した。

 最後は、日野会長の意見でまとまった。

「みんなの言いたいことは分かった。今回は、『私たちらしく』がテーマだろ。らしくっていうのは一人ひとりを生かすってことだよ。天に届けるのも、私たち一人ひとりの想いを届けることが大切だと思う。だから、ここは多少時間かかっても、勝負にこだわりすぎたら、これをやる意味なくなるよ。二十万だろ、うちらは三百人。つまり一人、六百七十人分だ。どうだ、結愛?」

「一分十人でいって、一時間ちょっとというところね。まあ、やれないことないと思う」

 そんな議論の末に、みんなでやると決めた。

 時間がかかることを承知の上だった。

 こうして、始まった。

 黒々とした宵闇の池を囲む九つの大きな火。

 その炎を囲んで、生徒たちは口々に願いを読み上げ、短冊を火にくべていく。

 書いてくれた願いを大切に声にするため、みんな声を張り上げた。

 たくさんの声。たくさんの願い。

 それが呪文のように京の夜空へ昇っていく。

 短冊が炎に触れるたび、火の粉が高く舞い上がった。

 この長い時間をなんとか持たせるため、途中から小町さんにも登場してもらう。

 読み始めて三十分。

 天見が描いた小町の絵を投影することになっていた。

 池の正面に用意された、黒い網で作った特製の大スクリーン。

 そこへ投影する美しい十二単の小町さんを、天見が担当する。

 頼んだぞ天見。

 俺は、暗がりの中、向こう岸で一人待機しているはずの彼女を見やった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 ソラは屈託を抱きながらも雨乞いの儀式を成功させることへと集中していく。後は頼んだぞ、ソラ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。