16 鴨川高校 雨乞い 2
昼下がり。
八坂神社に集まった鴨高生たちの顔は、みな、興奮で輝いていた。
境内の熱気は、これから始まる祭りへの期待で膨らんでいる。
堅苦しい挨拶も終わり、いよいよ行列の出発だ。生徒たちは、それぞれ持ち場でスタンバイしている。
南條、天見をはじめとする儀式担当のメンバーは、行列を途中まで見送ったあと、神泉苑へ向かう予定になっていた。
「鴨高諸君! 行くぞ!!」
「おおう!!!」
日野会長の掛け声とともに行列が動き出した。
先頭は九本の手作りの鉾だ。軽音楽部が奏でる、京の祭でお馴染みの笛、太鼓、鐘の音が響く中、九本の鉾が連なって堂々と進んでいく。
これは、祇園祭の起源にちなむものだ。厄払いの願いを込め、当時の国の数である六十六本の鉾を立て、神泉苑へ送ったという故事をもとにしている。
高く掲げられた鉾は、美術の腕の見せどころ。九クラスそれぞれが、個性豊かに作り上げた。三年生には、鉄から作りあげた力作まである。
色とりどりで形も独創的九本の鉾。その下には、七夕のように願いの短冊をつけた竹笹が飾られている。短冊は、京都中の学校、保育園、そして駅前で集めた願いだ。中には千羽鶴のように、大きな束になったものもある。
五色の短冊が揺れ、笹がサラサラと音を立てる。個性豊かな九つの鉾が京の大通りを進んでいく。
俺たちは、それを誇らしく見上げた。
みんなの願いを集めたこの九つの鉾。それは、この儀式にかける鴨高生たちの思いそのものだった。
多くの人の思いを集めて、この雨乞いを成功させる。その決意を乗せて鉾は進んでいった。
鉾に続いて、一年から順に各クラスが続く。
まずは我が一年一組。「小町の雨乞い歌劇」だ。
伊山が麗しい小町に扮し、「雨よ降れ〜」と朗々と歌う。
クラスの生徒たちは華やかな衣装で手を取りあい、歌っている。
伊山の衣装は、何日も徹夜してみんなで仕上げた、超派手な現代アート風の十二単だ。背の高い伊山が着ると、沿道からも、「かっこいい!」と言う声が聞こえてくる。
みんな飛び切りの笑顔だった。その楽しさは沿道の観客たちにも伝わり、あちこちから拍手が起こる。
沿道で手を振る天見たちに、クラスのみんなが笑顔でハートサインを返していた。
俺は近くの観客の中に見知った顔を見つけた。
「花山先生!」
スクールソーシャルワーカーの花山先生だった。
花山先生が、向こうに見える一人の老人のことを教えてくれた。
老人はニコニコと笑いながら、隣の人に支えられて行列を見ている。
「あれは柊のお爺さんですよ」
横にいる人は介護施設の人らしい。
そうか。花山さん、柊の方も行政と繋いでくれたんだ。良かった。
ちょうど二組の行列がやって来た。
二組は、色とりどりの手作り傘を持ってのダンスだ。
真ん中では、何体かの逆さのてるてる坊主が懸命に踊っている。
その一つは、どうやら柊らしい。
お爺さんが嬉しそうに手を上げた。
その後も、各クラス渾身の出し物が続いた。
鴨高伝統の劇風の行列が多いだが、大道芸を披露するクラスもあれば、集団演舞をするクラスもある。みんな、この暑さをものともせず、踊り、歌っていた。何より、全員がこの時を楽しんでいる。
沿道の人たちまで巻き込んで、みんなで楽しもうとする姿。まさにお祭りだった。
そして、行列の最後を飾るのは、雨乞いの五匹の龍。
縄で編まれた巨大な龍が、運動部員たちの手で勇壮に舞う。太鼓の音が響く。
この縄編みも大変だった。体育館で夜遅くまで、たくさんの生徒が入れ替わりながら作り上げた。
相手がお金に糸目をつけない衣装だったのに対して、こちらは小物一つまで自分たちの手で作った。生徒たちが夜遅くなるのも厭わず、一つ一つに思いを込めたものだ。
賑やかな龍の舞を確認すると、移動だ。俺は儀式班と共に自転車にまたがる。
「さあ、南條、天見。いよいよ雨乞いだ」
「任せてください。できるだけのことは全部やりました。ね、ソラ」
「あとは、やるだけです。みんなで」
「そうだな。よし、行こう」
俺たちは、神泉苑を目指した。




