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15 十月 甲子社高校 雨乞い 1

 十月二日。甲子社高校の「雨乞い」の日が来た。

 行列は午後から始まる。

 俺たちは、相手がどんなものを出してくるのかをしっかり見るため、出発地点の八坂神社まで来ていた。

 連日の練習と準備で、みんな疲れ切っている。

 同じように疲れているはずの南條は、無邪気に出店で買った風車を手にして嬉しそうだ。真っ赤な風車が、南條の手の中で暑い風を受け、カラカラと回っていた。

 八阪神社から神泉苑へ向かう沿道は、すでに大勢の人たちで埋まっていた。テレビカメラも何台も入っている。今回の「雨乞い」が京都中の注目を集めていることがわかる。

 開会セレモニーが終わり、いよいよ行列が動き始めた。

 先頭が静かに姿を現す。

 沿道から、「おおっ」と、感嘆の声が上がった。

 狩衣の武者。華やかな巫女たち。雅楽を奏でる学生たち。その間を、着物姿の女性たちが静々と進んで来る。

 衣装の美しさに、沿道から拍手が起こった。

 どれも本格的だ。

 学生が着るには、あまりにも立派な着物ばかりだった。

「あの衣装、相当高価なものを使ってるわね」

 南條が言う。

 確かに、学生たちは皆、本物のとわかる着物で身を固めていた。平安の雰囲気を、徹底して再現している。

「うわ、あの山車、なんだ?」

 美紅が声を上げた。

 お姫様たちに続いて現れたのは、大きな山車だった。

 祇園祭の山鉾を思わせる巨大な台車を、学生たちが力を合わせて引いてくる。台車は様々な美術作品で飾られていた。甲子社の生徒たちが作ったものなのだろう。

 それを組み合わせて、大きなヒガンバナのような芸術品に仕上げている。花の上で綺麗な姫と侍姿の生徒が立ち、観客に手を振っている。

「あれ、周防会長と俵副会長じゃない?」

 見ると、確かにそうだった。

「神泉苑では、昔から何度も雨乞いが行われているからな」

 日野が説明する。

「静御前の話も有名だよね」岡崎が続けた。

「後白河法皇の頃、雨乞いのために白拍子が舞を奉納した。その最後に静御前が舞ったところ、雨が降った。そして、そのときに源義経と出会ったという伝説」

「あれは静御前と源義経だな」

「やっぱり静御前できたわね」

 日野と岡崎が話している。南條がタブレットを見ながら、少し声を落とした。

「それと、咲良々。ちょっと気になる噂を耳にしたの」

「何?」

「向こう、大量の『桜』を動員してるって」

「桜?」

「ネット上の協力者。今回の『いいね』の数を一気に増やすために、かなり組織的に動いてるらしいの」

 日野が珍しく苦い顔をした。

「まあ、それぐらいはやってくるだろうな」

 目の前を華やかな行列が進んでいく。衣装も、小物も、演出も、細部まで手を抜いていない。

 汗をかきながら懸命に踊る生徒たちを見ていると、向こうも相当練習してきたんだろうと思う。

 敵ながら、見事だった。

 そんな雅で盛大な行列が過ぎていくと、少し間を置いて、二台目の山車が現れた。

「え!」

 天見の言葉が途中で止まった。俺も思わず、

「おおっ……」と声を漏らした。

 甲子社の生徒たちから、一斉に掛け声が上がる。

 それを合図に、サンバのリズムが鳴り響いた。

 ドラムの連打が小気味よく、リズミカルに踊る派手な衣装の学生たち。その中央を、大きくド派手な山車が進んでくる。

「リオのカーニバル……」

 派手な鳥の羽を思わせる派手な衣装も、どこか和風に仕上げられ、京の街にフィットさせている。

「そう来たか……」

 俺は思わず唸った。隣を見ると、伊山がやけに楽しそうな顔をしている。

 観客も口笛を吹き、大きな歓声を上げた。踊る生徒たちが沿道の観客まで巻き込んでいく。

 さっきまでの雅な世界から、一気に熱狂の渦へ。その落差が見事だった。

「今の、かなりインパクトあったわね」南條がタブレットを確認する。

「ネットでも盛り上がってる。『いいね』、どんどん増えてるわ」

 画面を見る。確かにすごい勢いだった。

 書き込みも次々と増えている。

「あの行列は、敵ながらあっぱれだったな」伊山は感心しきりだった。

「次の儀式にはどう来るのか、すごく楽しみだ」

 まだサンバのリズムに乗っている。

「美紅、そんな余裕ないよ」天見は不安げな顔をしている。

「この人気……大丈夫かな」

「大丈夫だって」伊山が胸を張る。

「私の小町、早くやりたくて、もう腕がなるっていうの。ああ早く歌いたい!」

 そしてソラを見上げた。

「これで本当に雨が降るかどうかだよな。問題は」

 俺たちも空を見上げる。

 雲はほとんどない。今日も、雨の気配はどこにもなかった。

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― 新着の感想 ―
 とうとう始まった。まずは甲子社高校。趣向を凝らした行列だ。アイデアが抜群だ。鴨高生に不安がよぎる。
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