↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
77/87

14 熱い九月 3

 アヒル母さんは、しばらく考えると、

「わかった。主様を探して伝えてみる」

 そう言って池へ戻っていった。

 すると、池のあちこちでアヒルたちが一斉に騒ぎ始めた。

 ガアガア、ガアガア。四方へ散っていく。

 そのまましばらく待っていると――

 水面が大きく揺れた。

 ぬっと顔を出したのは、見たこともないほど巨大な鯉だった。

 全身が金色。ところどころ黒く苔むし、悠然と尾びれを揺らしている。

「こんな鯉、いたのか……」

 一体、いつからこの池にいるんだ。

 鯉は俺たちをじっと見る。

「この鯉が池の主様?」

 天見は急いでスケッチブックを開いた。鉛筆が走る。

 やがて、描かれた鯉がゆらりと体を揺らした。

「ほう……」低い声が響く。

「『使い』を使える者に出会うとはな」天見が息を呑む。

「お前たち、龍王様のことを聞いておるようだな?」

「はい。龍王様のことで、知ってることがあれば、教えてください、主様」

「わしも、かれこれ二百年以上ここにいるがな」鯉はゆっくりと尾を揺らした。

「龍王様が、遠い昔にここ離れられたとしか知らん」

「どうして?」

「応仁の乱の頃だとも、二条城ができた頃とも言われておる。まあ、池が狭くなったというのもあるだろうが……」鯉の目が細くなった。

「人のせいで、龍王様が住めぬようになった、と聞いたことがある」

 天見は池を見渡した。

「やっぱり……ここにはもう居られないんだ。

 でも、龍王様に、もう一度力を貸してもらわないと大変なことになるの」

「そうか」鯉はしばらく黙っていた。

「龍王様ゆかりのものは、あのお社にある、お姿を描いた絵ぐらいしかは残っておらんだろう。何せ、昔のことじゃ」

「そうですか」

「すまんな。力になれなくて」

 鯉そう言うと、水面へ戻っていった。大きな尾びれが一度、水を叩く。そして、その巨体は池の底へ消えていった。

「龍王様が住めなくなったって……何でだろ?」

「この状況を見れば、大体想像もつくけどな」

 俺は都会の真ん中に取り残された、小さな池を見渡した。

「もう少し池を回ってみましょう」

 小町さんの言葉に従い、俺たちは池の周囲を丁寧に見て回った。それほど時間はかからず正面に戻ってきた。

「やっぱり、この広さじゃ、龍王様を呼ぶなんて無理なのかな」

「そうだな。ここに竜神に住んでもらうっていうのは、ちょっと想像しにくいな」

「でも、龍王様は天のもの。次元の違う存在よ」小町さんが首を振った。

「現世における実体はないから、池の広さそのものが決定的な理由とはならないと思うわ。ただし、龍王様を迎えるには、ここを神聖な場所として整える必要がある」

「神聖な場所……」

「我もここで歌を詠んだけれど、あの頃の池は、もっと澄んだ清らかな場所だった」

 小町さんの声が少し沈む。

「今は水が澱み、周囲に溜まった陰の気まで集めてしまっている。まずは、この水を何とかしないと始まらないわね」

「だったら、とりあえずは掃除だね」

「そうなのだけれど、それだけでも足りないわ」

「他に何がある?」

「この神泉苑、元は清い泉が常に湧き出していたの。それが名の由来にもなったほどよ」

「水質ということは……まず、水の沸き口を確認するが必要があるな」

 俺たちがそんな話をしていると、小町さんの姿がふっと消えた。同時に向こうの社務所から南條が出てくる。

「どう? 何かわかった?」

 天見は待っていたように南條に駆け寄った。

「ねえ、朱莉。ここ使わせてもらうなら、まずみんなでこの池の大掃除をしない?」

「池の掃除?」

「うん。神聖な儀式をする場所なんだから、ちゃんと綺麗にしないと『雨乞い』も成功しないよ」

「うん。それは私も考えてた。神聖な場所にふさわしい準備をどうするか」

 そして、すぐにうなずいた。

「よし。帰ったら、全校でやるように話してみる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。