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13 膨らむ九月 特別対抗戦 3

 その日、ソラは朱莉の家に寄り、彼女の部屋で雨乞いの詳細について相談した。  

 今回、表向きの対抗戦とは別に、本当の意味での「雨乞い」を行う必要がある。

 小町さんから儀式のレクチャーを受けたソラは、まじないのポイントをどう押さえるか、朱莉とじっくり相談していった。

「祇園祭りを考えてもわかるけど、鉾が神の依代としても重要なわけだし、やっぱり私たちも、鉾はつくるべきだと思わない」

 朱莉は、調べた祇園祭りの資料を見ながら言う。

「うん、それいいと思う。みんなの思いをその鉾に集める。私たちの祈りの依代になるわ。

 じゃあさ、各クラスで、それぞれに作ろうよ。クラスの象徴になるしね」

「それでさ、一番肝心なのはまじないでしょ。これどうすればできる? さすがに、ここはその道の専門家でないと無理でしょ」

「それは、私に心当たりあるから任せて。

 ただ、メインのまじないはしてもらうにしても、それだけじゃ足りないよね。

 やっぱり、できるだけ多くの人たちの祈りが大切になる。それも陽の気」

「陽の気?」

「うん。人を思う気持ち」

「それって、プラス思考ってことよね。上がる発言が大事っていうのは、私でもわかるし、みんなだってわかるよ。だって、人を下げたり、攻撃したりするのって盛り下がるもん」

「朱莉がそう言ってくれると心強いよ」ソラはうなずいた。

「今回の「祀り」で大事なのは二つ。

 まず第一目標は、できるだけ多くの人たちの願いや祈りを集めて、天に届けること。

 天と地の間に気の流れを作るためよ。流れができれば溜まった陰の気も減っていく。

 二つ目が、雨を降らせて地の熱を冷ますこと。これは物理的にも、気の力としても」

「二つ目は、まさに神頼みだよね」

「うん。それは仕方ないよ。でも私たちにもできることはある。

 陽の気がたくさん天へ向かえば、それだけ天の力になるはずだから」

 ソラは少し考えてから続けた。

「それで、肝心のまじないなんだけど、まじないの基本は言葉なの。

 言霊信仰って聞いたことあるでしょ。言葉を儀式にのっとって力に変えるの。だから、みんなの祈りを言葉にすることが大事。そこを押さえればいいと思う。

 でも、それをどうやったらできるかな……」

「だったらさ、七夕で行こうよ」珠莉が顔を上げた。

「短冊を竹につける、あれよ。あれならみんな馴染みあるから、協力してもらいやすいわ」

「それだ!」こういうときの朱莉は頼りになる。てきぱきと、次々に段取りを決めていく。

「これで、何とか大枠はいけそうよね」

 朱莉が、ふう、と息ついて窓の外を見た。

「この窓からは、隣の家の壁しか見えないでしょ。上を見上げても空が少し見えるだけ。

 小さい頃は、これが嫌だったんだよね。

 でもね、ちょっと空海のことを調べてて知ったんけど、空海の名がつけられた理由って、長い修行の末に悟りを得た場所で、空と水しか見えなかったからなんだって。海辺の洞窟だったから。それで空海。

 そう考えると、この部屋も、壁と少しの空しか見えないっていう点で同じじゃない?

 空海も、ほかに何もない場所で修行に集中したんだよ。

 そう考えると、これもありかなって思えるのよね」

 その前向きさとユニークさが、いかにも朱莉らしかった。

「そうなんだ。結構シンプルなんだね。空と水だけか。

 世界っていうのも、シンプルに考えた方がいいのかもね」

 ソラは窓から顔を出し、上にわずかに見える空を見上げた。

 朱莉が言うように、それは建物の間に見える、小さな空だった。

 でも、それは天に通じる空に違いない。たとえ小さくても、きっと――。 

 そのとき、ドアをノックして、朱莉のお母さんが、お茶とお菓子を持って入ってきた。

「なんか楽しそうやねえ。お茶でもどうぞ」

 淡い色の着物が自然で、帯が赤茶色がかったアクセントになっている。

 さすが京都の老舗のおかみさんだなと思った。

「うちの朱莉をよろしゅうね。この子、ちゃんとやってますやろか。ほんまに、おっちょこちょいなとこあるから」

「もう、母さん。余計なこと言わんと、もう店へ戻って」

 朱莉が両手で押し出す。お母さんは抵抗しながら笑った。

「ほんま、このとおりお転婆で困ってるんどす。ソラちゃん、ゆっくりしていってね」

 笑顔の優しいお母さんが、朱莉に押し出されていく。その姿を見ていると、頭の芯がズキリとうずいた。そのあと朱莉が、自分の親のことを「とにかく厳しい」と愚痴るの聞いていた。

 でも、その顔はにこにこと笑っている。

 きっと、いい関係なんだろう。

 そう思うほど、胸の奥がざらざらしてくるのが嫌だった。

 帰りの電車でも、ソラはそのざらざらしたものを持て余していた。

 電車の揺れに合わせて、胸の奥で何度も転がる。そのたびに、心のどこかが傷ついた。

 ソラはドアのそばに立ち、外を流れていく景色をぼんやり眺めていた。

 車内はよく冷えていたが、窓の向こうは、まだ夏の茹だるような暑さに押し潰されそうだった。

 ふと、前に葉山先生やトビが言ってくれていた言葉を思い出した。

 ――誰かに頼る。

 明日、行ってみようか。

 ソラは、これまでになく強く、そう思った。

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