13 膨らむ九月 特別対抗戦 2
岡崎が、ルールについて説明する。
「『雨乞い』というのは、古代よりさまざまな形で行われてきたわ。
その共通した根源にあるのは、神の前で賑やかに踊り、騒ぐこと。ほら、『天岩戸伝説』があるでしょ。あれも雨乞いそのものじゃないけど、神を楽しませ、願いを届けるという意味では、ひとつの原型と考えられるわ。
だから、今回の『雨乞い』で求められるのは、次の二つ。
一つが、『行列』。
二つ目が『儀式』、雨を祈る儀式よ。
この二つで、どれだけ多くの人の心を動かせるかを競う。より多くの人の思いを集めて、天に祈るということ。
それをライブ配信して、ネットの『いいね』と『コメント』の数で測る。だから、どれだけ多くの人にアピールできたかの勝負ね。もちろん、アカウントは一つにつき一回のみのカウント」
「本当に雨を呼ぶことができたら?」伊山が聞いた。
「そりゃあ、すごい騒ぎになるでしょうね。閲覧数だって跳ね上がる。
急遽作られたルールにしては、ポイント押さえてると思うわ」
岡崎は資料を指で叩いた。
「行列部門は、例年文化祭でやってる各クラスの劇をこの行列に振り替える。校内でクラス対抗にして、 それぞれ中身を考えてもらう。
そして、本番の『雨乞い』儀式については、生徒会本部、つまり私たちで企画していくことになる」
第一回の会議は、それから細かな企画について意見を出し合い、担当を決めたところで終わった。
これで、本当に神泉苑で雨乞いの儀式を大々的に行うことができる。
だが、やるだけでは意味がない。
「雨乞い」を成功させなければならない。
それも、この異様に高まった大地の熱を冷ますほどの雨を降らさなければいけない。
話がここまで進んだ今になっても、俺にはその方法が見えなかった。
そんなこと、どうすればできる――。
翌日、生徒会室で、さらに企画を練る会議が開かれた。
今回は、南條がしっかりと調べてきていた。
昨夜はほとんど寝ずに調べものをしていたという。
「テスト勉強でも徹夜はしないのにね」と本人は笑っている。学年トップクラスの彼女の言葉に、天見たちは「おーっ」と拍手をした。
南條は、みんなに資料を配った。
「私、地元だしいろいろ調べてみたんです。
まず、今回の話のルーツ、『空海の雨乞い対決』について。
この話は、古事記や太平記などに記述がみられます。
簡単におさらいすると、平安時代の八二四年、淳和天皇の勅命で、まず西寺の守敏が、続いて東寺の空海が雨乞いを行った。でも雨は降らなかった。
空海は、守敏が呪力により龍神を水瓶に閉じ込めていたことを知る。そこで、唯一残されていた龍神、善女龍王を探し出し、神泉苑に呼び寄せた。
善女龍王は龍に姿を変えて現れ、雨を降らせた。
それ以来、神泉苑は雨乞いの霊場として知られるようになった――という話です」
「その話からいくと、今回、私たちは東の空海っていうことね」
日野会長が腕を組む。
「そうです。だから、京都の東にある鴨高と西にある甲子社が、かつての再現として選ばれたわけです」
南條は資料をめくった。
「次に、『雨乞い』について。
『雨乞い』は古代から行われていて、神や仏雨を願うため、さまざまな祈りや祭り行われてきました。
そして今回の舞台、神泉苑は、平安時代から旱魃のときには雨乞いが行われ、疫病などの災害が起きたときには、怨霊を鎮める御霊会も行われてきた歴史的な場所です。
つまり、今の京都が抱えている問題――雨不足と動物の病気、その両方を願う舞台として意味があると思うんです。
ちなみに、その御霊会が発展したものが、今の祇園祭につながっていったといわれています」
南條はそこで一度、みんなの顔を見回した。
「それで、今回の『雨乞い』。私は、ただのパフォーマンスに終わらせちゃいけないと思うんです。
本当に雨を降らせる覚悟が必要なんじゃないでしょうか。
私たちが、この危機を救うという覚悟です。
そのためには、昔の儀式の意味をちゃんと踏まえる必要があると思います。
でも、昔の儀式をただ再現しても、それは本物じゃない。何より、私たちらしくない。
そんなの、ただの時代行列みたいになっちゃうもの。
そうじゃなくて、今の時代に合った、今の私たちだからできることをやるべきだと思うんです」
南條の話に、日野がうなずいた。
「確かに、これが高校生の、ただのお祭り騒ぎになったら、見てる人たちは、みんな白けるだろうな。
『この現実の大変さがわかってないのか』って。
それじゃあ、ネットでの賛同だって得られない」
「そこで、提案です」
「私たち鴨高のテーマは、『雨乞いのアップデート』。
儀式本来の意味を踏まえつつ、現代のものにアレンジすることが大切だと思います。どうでしょう」
天見と伊山が拍手をする。日野たちも賛意の声を上げた。日野が立ち上がる。
「よし。みんな異論はないようだな。その方向で進めよう。
実際の細かいアイデアは、校内で募集していこう。朱莉、これからも頼むよ」
「はい!」




