13 膨らむ九月 特別対抗戦 1
数日後、放課後の生徒会室に集められたのは、生徒会執行部の三人に、天見、伊山、南條を加えた六人だった。
俺が頷くのを見て、日野がホワイトボードの前に立つ。
「今日、集まってもらったのは、大事な企画会議を行うためだ。題して――」
日野はホワイトボードに大きく書き殴った。
「特別東西対抗戦!」
天見たち三人の顔が一斉に明るくなる。その反応を見て、日野はニヤリと笑った。
「やっぱり、君らはもうわかっていたんだな。なら話が早い。この秋、鴨川高校対甲子社高校で特別対抗戦を行うことになった」
「やった!」
三人から歓声が上がる。日野は続けた。
「この夏の異常な暑さと水不足。おまけに原因不明の動物の感染症まで広がって、人にも感染するって噂まで出ている。そのせいで、京都を訪れる観光客も大きく落ち込んでいる。なんらかの対策が急務だったんだ。
そこで持ち上がったのが、水不足の解消を祈願する『雨乞いの儀式』だ。
ただ、歴史上の儀式をそのまま再現したところで、観光への寄与も限られる。そこで考えられたのが、かつてこの京都で繰り広げられた有名な雨乞いの対決だ。
知ってるだろ。二条城の近くにある神泉苑で行われた、空海と守敏僧都の雨乞い対決。その再現をやろうっていうんだ。
そして、その対決に指名されたのが、地元の高校、東の代表として我が鴨川高校、西は甲子社高校。この二校で東西雨乞い対決をする」
日野はそこで一度言葉を切った。
「先日、校長先生からその話があってさ。もちろん、即答で引き受けた。
そして。この対抗戦、君ら三人が参加することが裏の条件になっている。
君ら―――ほんと、何をやったんだ?」
日野の言葉を受け、伊山が立ち上がった。
「まあ先輩、ここは返り討ちにしてやりましょう。これ、うちの名前を京都、いや全国に知らしめる大チャンスですよ」
「当たり前だよ」日野は、両手を広げ全員を見渡した。
「私たちは芸術家を目指しているんだ。こんな大きな発表の場を逃す手はない。な、結愛」
岡崎がうなずく。
「当然です。ただね、今回、対抗戦をやるってことで、あの『小野小町』の絵をもう一度、かけるっていうのが条件についてたの」
「あの絵を?」
「そう。元々あの絵は向こうの理事長が寄付したものでしょ。それを取られたのが悔しくて取り返したいっていうことみたい。相当高価な物らしいしね。
向こうの理事長が直接うちの校長に会いに来て、あの『小野小町』をかけて、対抗戦の再戦をしようって言ってきたって話よ」
あの副会頭、最後にそんな条件をねじ込んできたのか。さすがというべきか、あの豪快に笑う姿が目に浮かんだ。
「小町さんは、絶対、渡さないんだから!」
天見が強い口調で言った。
普段にはない迫力に、全員の視線が天見に集まる。
それに気づいた天見は、少し照れたように言った。
「守りましょうね!」
そうだ。あの小町さんを、取られるわけにはいかない。
そんな天見の切実な思いを知らない日野は、「当然だ」と力強く頷いた。
「それでだ。今年は例年の秋の文化祭をこれに代えて、この『雨乞い対決』に全校で取り組むことを、昨日の臨時生徒会で決めたんだ。それを明日、全校に発表する。
というわけで、今からその作戦会議だ。みんないいね」
「はい!」
天見たちが声をそろえる。
日野は「また、忙しくなるぞ」と言いながら資料を配り始めた。
「トビちゃんのためにも、絶対成功させようね。歴史のことなら、まかせといてよ」
いつもはマイペースな南條も、今日は気合が入っている。
「今回は、この生徒会本部で企画を練って、全校体制で進めたいと思う。
次に対抗戦ルールについてだ。まず、チラシを見てほしい」
配られた資料には、次のように記されていた。
*
『現代に蘇る伝説の雨乞い対決』
主催:京都市商工会議所・京都市教育委員会・京都市観光局・京都新聞社
日程:十月二日(日)甲子社高等学校
十月九日(日)鴨川高等学校
八坂神社より四条通を経て神泉苑までの「行列」のあと、メイン会場「神泉苑」にて「雨乞い」の儀式を執り行います。
当日は各校による「行列」のパフォーマンス、および、神泉苑での「雨乞い」の儀式をライブ配信します。それを見た皆さんのウェブ上での「いいね」と「コメント」の数で対決を行います。




