12 夜の帳の向こう 7
放課後。
グランドを走る天見を見つけた。
一人黙々とを走っている。ペースを乱さず、ただ走る。
どのくらい走ったのだろう。
やがて天見が走り終え、水道のところにいた。
俺は職員室を出て、彼女に近づいた。
「お疲れさん」
「先生」
天見は、思ったより普通に答えた。少したわいのない話をした。
学校のこと。トビのこと。雨乞いのこと。
そして、俺はずっと考えていたことを口にした。
「なあ、天見」
「はい」
「他に、頼れる身内はいないのかな」
汗を拭いていた手が止まった。天見は遠くの空を見た。
遠くに雲が流れている。いつの間にか、蝉の声も止んでいた。
しばらくして、天見が、俺を見る。
「今まで、そんなこと考えたこともなかったんです」
「うん」
「だから、最初は自分でもびっくりしたっていうのかな。何を言ってるんだろって」
天見は少し笑った。
「でも、不思議なんです」
「何が?」
「なぜか、泉さんの姿が浮かんだんです」
「泉さん?」
「亡くなった祖母の妹です」
天見は、少し遠くを見るような目をした。
「今までに一回しか会ったことないんですけどね」
「じゃあ、その人に一度会ってみるか」
「えっ?」
「いや、俺もその人に会ってみたくなった」俺は思い出した。
「たしか、南條がファンだっていう、陶芸やってる人なんだろ?」
「はい」
「なら、会ってみればいいじゃないか」
「でも……」天見は口ごもった。何か言おうとしてやめる。俺は急かさず待った。
しばらくして、天見が小さな声で言った。
「私、これまで誰かに頼るとか、考えたこともなかったんです」
俺は黙って聞いた。
「誰かに頼るより、自分でやったほうがいいって思ってたから」天見は、遠くの空を見る。
「小さい頃から、なんで誰も私を助けてくれないんだろって思ってました。でも、それが当たり前になってて……」
少しだけ笑った。
「でも、トビと出会ってから、美紅や朱莉、パン、それに先生も。みんなと一緒にいろんなことやってるうちに、楽しいなって思うようになったんです」
天見の声は、少しずつ柔らかくなっていた。
「誰かと一緒って嬉しいなって」
「……うん」
「それで最近、よく考えるんです」天見は俺を見る。
「一緒にいるって、よく考えたら、頼ったり頼られたりすることなんだなって」
俺は何も言わず、聞いていた。
「昨日、花山先生に言われたんです。人に頼るのはいいんだよって」
天見が、笑顔になる。
「自立してる人って、一人で何でもできる人じゃなくて、少しずつお互いに頼って生きる人なんだって」
その言葉を、天見は噛みしめるように繰り返した。
「そのとき、あ、これ……トビにも言われたって思っちゃった」
天見は、ほんの少しだけ声を出して笑った。
俺は、その顔を見た。
昨日までの彼女とは、少し違って見えた。
まだ闇の中にいる。
でも、その向こうに、小さな光が見えた気がした。




