2 三校対抗戦⁉ 3
パンというのは、ソラたちが勝手につけた名前のネズミだ。
朱莉が、みんなを誤魔化すのが、どれほど大変だったかを力説しているところに、「チュッ!」と小さな鳴き声が聞こえた。
「あ〜」と三人が、声を揃えて見たその先、窓の所に、てのひらほどの大きさのネズミが一匹ちょこんと座ってこちらを見ていた。
春の陽だまりに、その白黒のかわいいふわふわ毛玉は、鼻をヒクヒクとさせ黒い大きな目を輝かせて三人を見ている。白毛に、手足と目と耳の周りが黒毛になっているところは、まさしくパンダ、パンダ柄のネズミだった。
「もう、パン、あんたわかってるの、絶対みんなの所に出ちゃダメって言ってるのに。もー、そのかわいさは反則なんだから」
今まで怒っていた朱莉も、てのひらに飛び乗ってきたパンに、たちまちとろけてしまう。
「朱莉ばっかずるいぞ。パン、こっちへおいで」
美紅が騒ぐと、パンは「チュッ」と返事をした。
――も〜、この子はほんと自分の武器を知ってるわ。
ソラは呆れ顔でいる。
パンは、迷子のファンシーネズミだ。初めは、ソラがこの実習室で授業中に見つけた。
近くのペットショップから逃げ出したらしく、この校舎に住みついている。白黒のパンダ柄なので、パン。
あまりにも安直な名前だったが、ほかに思いつかなかった。
三人は昼休みに野菜の切れ端をあげている。もちろん、学校で飼ってはいいわけではない。とりあえず、ちゃんとしたところが見つかるまではとなった。だから、パンのことは三人だけの秘密だ。
この学校で、こんなかわいいネズミの存在が知れたら、大騒ぎになることは必然! 鴨高の女子率の高さを考えると、このかわいさは、爆弾級、危険だと三人は判断したのだ。
ソラは陸上部にも入った。
大会を目指すような部ではない。走ることが好きだったソラには、そのくらいの距離感がちょうどよかった。
そんなふうに、いろんなことが始まった高校生活だったが、四月も終わろうとする週末の金曜に、ソラにとって大きな出来事が待っていた。
昼休み、ソラと美紅が、その日も弁当を手にいつもの実習室へ向かっていると、階段ホールで、生徒会の人たちが、大きな声で呼びかけをしているのに出会った。
「おお、そこを行くのは、この間の新入生じゃないか」
ソラたちを呼び止めたのは三年の日野咲良々(さらら)、生徒会長だ。長身でショートカットの髪をはずませ、こちらに駆けてくる姿は今日も光ってる。
「昨日、照明の件で聞いた。天見、目がいいんだって?」
いきなり詰め寄られ、目を白黒させるソラ。
「これはまさに運命の出会い。そうこれは運命だ。よし、ここにサインをしてくれ」
日野先輩は、ソラにペンを持たせると、紙を差し出した。そこには、「三校対抗戦参加申し込み」と書いてある。
「え、どういうこと?」と戸惑っていると。
「咲良々、さすがに、ちゃんと説明しないと」
横からメガネの似合う副会長、岡崎先輩が凛とした声で話しかけてきた。
「ごめんね。君たちさ、対抗戦、参加する気、ないかな。いや、どうか参加してくれないかな。参加者、集まらないんだよね」
「頼む。君たちなら大歓迎だ。実は、選手報告の締め切りが今日までなんだ。それに間に合わないと、戦う前に不戦敗という対抗戦始まって以来の不名誉なことになる。ここは、学校を助けると思って、一緒にやってくれ。お願いだ」
「うちは部活といっても、対外試合とかはほとんどないから。こんなふうに学校として、真剣にやるっていうのは、貴重な体験になると思うし」岡崎先輩が両手を合わせて懇願する。
「しかも、この学校の歴史に名も残るんだぞ」
日野先輩が申込用紙を差し出した。
二人の真剣さに、ちょっとソラの心が動いた時、隣の美紅が、その紙を横から取って言った。
「いいっすよ。先輩、やります。な、ソラもやろうよ」
「――私、五時になったら帰らないといけないけど、それでもできますか」
「全く問題ないよ。自分のできる時間を有効に使ってくれればオッケーだから」
日野先輩が、ニコリとして答える。その笑顔と一緒に過ごしたくなっていたソラは、
「それなら、やります」と答えていた。
それを聞いた日野先輩が、「うお〜!」と雄叫びを上げる。
「さすが、私が見込んだだけある、ありがとう」
横でホッとした笑みの岡崎先輩がいた。
というわけで、ソラたちは、ほとんど勢いだけで、この歴史ある三校対抗戦に参加することになってしまった。
しかし、話はまだ終わらなかった。




