2 三校対抗戦⁉ 2
昼休み。
一年一組の天見空と伊山美紅、そして二組の南條朱莉の三人が、いつものように北館一階端にある実習室でランチをしていた。
この実習室は、美術の作業ならいつ使ってもいい。ソラたちがランチタイムに使うようになったのは、この部屋が校舎の一番はずれにあって人通りも少なく、しかも日当たりが抜群という立地にあった。
三人は、入学したその日から、すぐに打ち解け、よく一緒にいるようになった。
ちょっと人見知りのところがあるソラに、
「ねえねえ、部活どうする? 演劇部見に行かない?」と、初日すぐに声をかけてきたのが美紅だった。
自己紹介でも言っていたように演劇部に入ると決めていた美紅は、入学式の日にソラを誘って演劇部に行き、その日から活動している。
美紅は、その背の高さだけでなく、大きな目と鼻筋の通った彫りの深い顔立ちでも人目をひく。
ソラは、最初、「美人さんだなあ」と少し近寄り難くさえ思っていたのだが、席の近かった美紅とは何かにつけ一緒に行動するようになった。
これまでのソラなら決してやらなかったことも、美紅と一緒だと、ためらうひまがない。
とにかく活動的な美紅と一緒にいるのは、楽しかった。
長年開かなかった建付けの悪い戸口を強引に開け放ってくれたようで、ソラは毎日新しい風に吹かれて心地よかった。
美紅は、亡くなったお母さんがシンガポール出身だとかで、そんなことを、会ったその日に軽い調子で話してくれた。そんな美紅を、ソラはすぐに好きになった。
そしてもう一人。
入学初日、帰ろうとしたソラの前に、いきなり立ち塞がるように現れた少女がいた。
肩を超すさらさらの長い髪のその少女は、大きな瞳でソラをまじまじと見つめると、
「あなた、宮成泉さんの親戚ってほんと!?」と聞いてきた。
戸惑うソラが、「えっ……、そうだけど」と気圧されるように答えると、パッと表情を輝かせ、いきなり両手で握手された。
「すごいわ、信じられない! 私、南條朱莉、宮成さんの大ファンなの!」
何が起きたのかわからないソラの手を、ブンブン振りまわすほど激しい握手をしてきた朱莉。
宮成というのは、ソラの母方の姓だ。
宮成泉という名は確かに知っていた。
ソラの祖母、宮成滝が一年前に亡くなった。その告別式の時に初めて会ったのを覚えている。祖母の妹、つまりソラの大叔母にあたる、それまでに会ったことのない遠い親戚だった。
銀髪で背筋のピンと伸びた闊達な人という印象だった。陶芸家をしているという。自分の好きなことを追い求めている人のように思えて、少し憧れの目で見ていると、母が「どうせ気ままにフラフラしてるんでしょ」っと、影で毒を吐いていた。その時に聞いたのは、泉さんが、京都の宇治に一人で住んでいて、陶芸の世界では名の通った人だということだった。
そんな泉さんの大ファンだという朱莉とも、すぐ友達になり、彼女がいかにして陶芸の世界にはまっていったのかを聞くことになる。
朱莉の家は八坂神社近くで大きな陶芸店を営んでいる。彼女はそこの一人っ子だ。
朱莉は、幼い頃、店に飾られいた一つの壺に心を奪われた。
淡い緑の風景の中に一本だけ桃色の桜が立ち、その下に、よく見なければ気づかないほど小さな女性が描かれていた。
「その壺が売れた時、私、何日も泣いたの。だから、この作品を作った人に会いたいってずっと思ってた」
それが、陶芸家、宮成泉との出会いだった。
そんな憧れから彼女は陶芸の奥深さにはまっていき、今も放課後や休みの日には、陶芸の先生のところに通っている。
「宮成泉といえば、江戸時代の仁清の再来と言われたほどの人なのよ。ほんとすごいんだから。ソラがその親戚ってだけで、もう手が震えてくるわ」
陶芸のことを語り出すと、スイッチが入ってしまって、周りが見えなくなる朱莉。
クラスの違う彼女とも、ゆっくり話せるこのランチタイムは、三人にとって大切な時間になっていた。
「もう、聞いてよ。パンがさ、危なく見つかりそうだったんだよ。しかも、あの一番うるさい誠吾によ!」
朱莉が、弁当をひっくり返しそうな勢いで、今日の出来事を二人に訴える。
四限目は一年共通の美術の授業だった。美術はこの学校の大きな特色になっている選択教科だ。多くの場合、選択科目は美術や書道といった教科を選ぶのだが、ここ鴨川では美術は必修で、その中で、日本画、洋画、陶芸、彫刻、デザインの中から専門コースを選ぶのだ。一年生は普通科の生徒も含めて、二種類の専門的な実習を学んでいけるようになっている。ソラと美紅は日本画と洋画、朱莉は陶芸と日本画を選んでいる。
その授業中、朱莉のいた実習室に、パンが、ひょっこりと顔を出したという。




