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12 夜の帳の向こう 5

 何ができる? どうすればいい?

 これは虐待だ。学校から関係機関に伝えることはできる。でも、それだけで天見は救われるのか。

 その後、どうなる?

 俺がそんなことを考えていると、天見が顔を上げた。

「絶対に言わないで」

「天見……」

「私が悪いんだから」

「違う」

「私がちゃんとできたらいいのに。できなかった私が悪いの」

 天見は必死だった。

「母さんは、ちゃんと私のこと考えてくれてるから」

「そうじゃない」俺は首を振った。

「君が悪いことなんて、何にもない」

 天見は、それでも首を振る。

 俺はトビを見た。トビも、悲しそうな目だった。

「天見」俺はゆっくりと言った。

「俺は、このことを知った以上、言わなきゃいけない義務がある」

 天見が顔を上げた。

「ただ、絶対に悪い方向にいかないようにする。だから、黙っていることだけはできない、許してくれ」

「……」

「君の意見は、必ず聞く。お母さんに言うのかどうかも含めて、一緒に考える」

 天見は何も答えなかった。

 その日は、それ以上何も話そうとしなかった。

  *

 俺は、このことを学校に報告した。

 翌朝、スクールソーシャルワーカーの花山さんが来てくれた。

 俺より少し年上だろうか。ベージュのスーツを着て、終始穏やかな笑顔を浮かべている人だった。

 放課後、花山さんとの話に天見を呼んだ。

「二人だけがいい」

 天見がそう言うので、俺は相談室の外で待つことにした。

 しばらくして、二人が出てきた。

 天見の表情は、少しだけ落ち着いていた。

「大丈夫か?」

 俺が聞くと、天見は黙ってうなずいた。花山さんが、天見に向かって優しく言った。

「これからのことは、関係する人たちで一緒に考えます。会議でも、あなたの意見を尊重してもらいます」

 天見は黙って聞いている。

「それと、しんどいときは、誰かに頼っていいんですよ」

 天見が顔を上げる。

「頼っていいってこと、忘れないでくださいね」

「……はい」

 小さな声だった。

「ありがとうございました」

 それだけ言うと、天見は帰っていった。

 少しだけ肩の力が抜けたように見えた。

 天見が帰ると、花山さんは、今後のことを説明してくれた。

 関係者でケース会議を開き、学校や家庭、必要な関係機関など、さまざまな方面から状況を確認する。そのうえで、どう介入するのがいいのかを決める。

 必要なら児童相談所への一時保護も検討される。

 ただし、高校生になると危険性が低く見られやすく、一時保護には慎重になることもあるという。

「だったら……何も解決しないじゃないですか」

 俺は思わず言った。

「自分には、何もできないんでしょうか」

 花山さんは、少し考えてから答えた。

「いえ。先生にも、できる大切なことがあります」

「俺に……」

「彼女の居場所を作ってあげてください」

「居場所?」

「安心できる場所を、この学校の中に作るんです」

 花山さんは、穏やかに続けた。

「そんな場所がどれだけあるか、それが、その人にとってどれほど大切か。人にとって一番安心できるはずの家が、そうではないとしたら、他に作るしかありません」

「……」

「それがあれが、きっとその人の大きな力になります」

 花山さんは少し笑った。

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