12 夜の帳の向こう 3
翌朝。
休むだろうと思っていた天見が、教室に座っていた。
俺は驚いた。
だが、もっと驚いたのは、その顔だった。
うつむいて、俺とは目を合わせない。青白く、目の周りが腫れぼったい。
それなのに、伊山と南條が来ると、いつものように笑って話ししている。
昨日のことなど、何もなかったかのように。
俺は、その姿を見ていた。
天見には、光と闇がある。しかも、それは別々に存在しているのではない。同じ一人の中に、くっきりと同居している。昨日の夜、そのことを俺は初めて確信した。
直接聞いても、彼女は何も言わないだろう。そう思った。
だから、少し考えてから、放課後に相談室へ呼び出した。
「大丈夫か?」
うつむく天見に、俺はそれだけ聞いた。
天見は小さくうなずいた
「ところでさ」俺は、できるだけ普段どおりに言った。
「トビを呼び出してくれないか?」
「トビを?」
「ああ。あいつ、ちょっと元気が戻ってきただろ。最近、結界の中で暴れるから危なっかしくてな。それで、ちょっと話しておきたいこともある」
天見は、少し驚いた顔をした。俺に昨日のことを聞かれると思って、身構えていたのだろう。それが拍子抜けしたようだった。
「……わかりました」
天見はのスケッチブックを開いた。そして、トビの姿を描き始めた。
やがて、紙の上に描かれたトビが、のそりと立ち上がった。
まず天見を見る。それから俺を見た。
俺は、スケッチブックを受け取った。
「トビ」
「ああ」
「すまなかった」
トビが眉をひそめる。
「俺、お前との約束、全然守れてなかった」
天見が、はっと顔を上げた。
トビは、俺を睨んだ。
「ああ。大人のあんたがいながら、何してんだよ。言っただろ、頼むって」
「本当に、すまん」俺は頭を下げた。
「俺、見えてなかったんだ、いや……見えてたのに、知ろうとしてなかった」
「あんたが謝ったって遅いんだよ」
「わかってる」俺は顔を上げた。
「だから、今からでもできることをしたい」トビを見る。
「トビ、俺にちゃんと教えてくれ。天見のこと」
その瞬間だった。天見が、スケッチブックを奪おうとした。
「先生!」
俺は立ち上がり、トビの絵を高く掲げた。
「頼む」
「やめて!」天見が叫んだ。
だが、トビは静かに言った。
「わかったよ」
「トビ!」
「ソラ」トビが俺を見る。
「誰かに頼るんだ」
その声には、いつもの軽さがなかった。
「俺たち猫だって、基本は一匹だ。でも、なんかあったら仲間に頼る。それが生きるってことだ」
トビは天見を見る。
「所詮、生きてる限り、一匹で生きることなんてできないんだ。特に人間はな」
天見は、目を真っ赤にして、うつむいた。奥歯を食いしばるように、じっと耐えている。
トビはしばらく見つめた。そして、静かに話し始めた。




