12 夜の帳の向こう 2
二人で校舎を回った。だが、天見はいない。
教室も、実習室も、図書室も、誰もいない。
校舎はすでに施錠されていて、入れないはずだった。
「車を出そう」
中倉先生が言った。
「学校の周りを探してみよう」
「ありがとうございます」
俺たちは中倉先生の車で学校周辺を探し始めた。
二十二時を過ぎた。
京都の街も、繁華街を除けば、さすがに人影が少なくなっている。
車の窓から何度も外を見る。
いない。
天見の姿はどこにもない。
「最後に、普段使ってる駅へ行ってみよう」中倉先生が言った。
神宮丸太町駅。天見が普段通っている駅だ。
駅前で車を降りる。
「先生、ここで待っていてください」
「一人で大丈夫?」
「すぐそこですから」
俺は駅周辺を走り回った。
片側二車線の川端通りも、車の数は少ない。人影もほとんどない。
ふと、鴨川にかかる丸太町橋が目に入った。なぜか、そこが気になった。
俺は道を回り、川の方に降りてみる。
土手に続く遊歩道が、白い街灯に照らされている。
遊歩道は、橋の下へ続いていた。
丸太町橋は低い。橋の下を通るには、少し頭をかがめなければならない。
俺は身をかがめて、橋の下に入った。小さな灯りが、かろうじて闇を照らしている。
そのときだった。
石段の一番下に、人影が見えた。
「……天見?」
近づく。間違いない。
「天見!」俺は駆け寄った。
「俺だ。よかった……無事だったのか」
天見は、頭を抱えるようにして座り込み、じっと川面を見ていた。声をかけても、動かない。
「天見?」
もう一度呼んだ。
それでも、彼女は振り向かなかった。
俺は何も聞かず、ただ彼女を立たせた。
「帰ろう」
天見は抵抗しなかった。だた、黙ってついてきた。
明るい所で見ると、天見の顔がよく見えた。
泣いていたのだろう。目が赤く、顔も白い。
「大丈夫?」
中倉先生が声をかける。
天見は何も答えない。ただ俯いている。
唯一、反応を示したは、俺が母親に連絡しようとしたときだった。
天見は、ぎゅっと身体を縮め、車のシートに身を固めた。
「大丈夫。俺が送っていくから」
俺は母親に電話をかけた。
「今、見つかりました。これから家まで送ります」
電話を切る。
中倉先生は何も言わず、車を走らせた。
車内は静まり返っていた。時折、天見の顔を見る。
青白い横顔。表情がない。まるで、いつもの天見とは別人だった。
一時間ほど走り、井手町にある天見の家に着いた。
玄関が開く。
母親が飛び出してきた。
「ソラ!」
母親は俺の言葉などほとんど聞かず、大きな声で天見を叱った。
そして、そのまま天見の腕をつかみ、家の中へ引っ張っていく。
「ちょっと、お母さん……」
俺は何も言えなかった。
ガチャン。
玄関の扉が閉まる。
俺は、その扉をしばらく見つめていた。
「……帰ろうか」中倉先生が言った。
「ええ」それしか言えなかった。
車に乗り込む。しばらくして、中倉先生がぽつりと言った。
「どうしたんだろうな」
「……」
俺は窓の外を見た。
「ああ、なんとかしなきゃ」そう言うのが精一杯だった。
こんな遅い時間まで付き合ってくれた中倉先生に、何度も頭を下げた。




