12 夜の帳の向こう 1
その夜、俺は三人と分かれたあと、学校へ忘れ物があったのを思い出した。
そのまま学校に戻ったのは、二十時前だった。
最近は教員も早く帰れと言われてうるさく言われている。もう誰もいないだろうと思いながら職員玄関にいくと、まだ開いていた。
職員室には、中倉先生と教頭が残っていた。
「どうしたの、葉山先生。忘れ物?」
「中倉先生こそ、どうしたんですか。こんな遅くまで」
「生徒たちの課題の採点に手間取ってね。今、やっと入力終わったとこ。どう? 今からちょっと行く?」
そんな話をしていると、電話が鳴った。
最近は、夜になると留守番電話に切り替わるようになっている。受話器を取る前に、自動応答に切り替わった。スピーカーから女性の張りつめた声が響いた。
「これ、どうなってるの? 誰もいないの?! うちの子がまだ帰らないんですけど!」
聞き覚えのある声だった。俺は、思わず受話器を取った。
「もしもし」
「あっ、先生ですか? ソラは? まだ帰っていないんですけど!」
やはり、天見の母親だった。
「どうされたんですか?」
「どうされたって、帰ってきてないんですよ! 携帯の位置情報見たら学校になってるんです。なのに誰もいないって、どういうことなんですか!」
電話の向こうから、一方的に言葉が飛んでくる。
「落ち着いてください。天見なら、さっきまで一緒にいました」
「一緒にいた?」
「ええ。ただ……」
今日、池田さんと会うことになり、帰りが遅くなったことまでは知らない。
「どうしてそんな時間まで! 先生なのに、ちゃんと見ていてくれなかったんですか!」
「すみません。ただ、別れてから一時間以上たってますし、もう帰っている頃だと思います。もう少し待ってもらえませんか」
なんとかそう説明して電話を切った。
「どうしたの?」教頭が聞く。
俺は事情を話した。
「携帯の位置情報が学校?」
「たぶん、教室にでも忘れたんでしょう」
「確認してみたら?」
「そうします」俺は一度、教室へ向かった。
夜の校舎は、昼間とはまったく違う。
廊下の証明だけがぽつぽつと点いている。
教室に入り、天見の机を確かめようとしたそのときだった。
ブーン、ブーン……。
静まり返った教室に、携帯の振動音が響き渡った。
「……あった」机の中だった。
画面には、『母さん』と表示されている。
俺は電話に出た。
「お母さんですか。葉山です。携帯、やはり教室に忘れていたみたいです」
とりあえず、もう帰るはずだと思うので、待ってほしいと伝える。
それでも電話の向こうでは、まだ不満が続いている。なんとかなだめて電話を切った。
画面を見る。母親からの着信履歴が何十件も並んでいた。
「……これは、さすがに」
嫌な予感がした。
俺は職員室に戻ると、教頭に、池田さんとの話しも含め、今日の経緯を説明した。
「もう少し、帰るのを待ちます」
教頭は渋い顔をした。
「女子生徒なんだから、遅くなる時は気をつけてよ」
「はい。すみません」
机に戻ると、中倉先生が心配そうに聞いてきた。
「大丈夫?」
「たぶん……」
そう答えたものの、自分でもまったく自信がなかった。
中倉先生と池田副会頭の話などをしながら三十分ほど待った。
そのとき、また天見の携帯が鳴った。母親からだった。俺が出る。
「もしもし」
「まだ帰ってきてないんですけど!」
時刻を確認する。
駅で別れたのが十九時過ぎ。もう二時間近くになる。
「……ちょっと待ってください」
俺は電話を切ると、伊山に電話をかけた。
家に電話すると、伊山が出た。
「ソラ? 学校に戻るって言ってたよ」
「学校に?」
「うん。忘れ物があるとか言ってたけど」
「わかった」
電話を切った。
「中倉先生、もう一度、学校を見て回ってもらえますか」
「もちろん」




