11 雨乞い 7
「いやあ、君たちだね。今回の発案者は」
挨拶もそこそこに、池田副会頭は切り出した。
「雨乞いをしたい理由を、直接聞かせてもらいたい」
俺が話そうとすると、
「いや、君ではなく」と手で制された。
「君たちの言葉を聞きたいんだ」
三人が顔を見合わせる。
ここへ来る前に、決めていた。
小細工はしない。
自分たちが思っていることを、そのまま話す。
最初に口を開いたのは伊山だった。
この日照りの中で、伝説の雨乞い対決を現代に再現する。今まさに京都が必要としているイベントになる。
伊山は感情豊かに堂々と語った。
続いて南條が、この京都の街の伝統の危機について話した。
そして、自分たち若い世代が、その伝統を受け継ぐ意味について、理路整然と語った。
最後に天見。
「今、この世の中は、人が他人を思う心も、自然を思う心も、少しずつ忘れられているんじゃないかと思います」
言葉は決して上手じゃなかった。それでも、一言一言に熱があった。
「だからこそ、自然を思い、人のことを思う雨乞いという祈りが、今、本当に必要なんだと思います」
三人が話し終えると、池田副会頭はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと笑った。
「確かにこの夏のかんばつは深刻だ」池田副会頭は俺たちを見る。
「しかも、世の中には不穏なことが溢れている。君たちだけじゃない。私たち大人も、何かしなければならないと、いつも話しているんだよ」
そして、あっさりと言った。
「使う許可は取ってあげよう」
「え?」俺たちは一斉に顔を上げた。
「ただし、多くの人を集めるには、みなが納得する理由が必要だ」
池田副会頭は、伊山を見る。
「そこでだ。伊山くん、君の提案に乗ろうじゃないか」
「私の?」
「かつて行われた、東寺の空海と西寺の守敏による雨乞い対決。その再現だ」
池田副会頭は、そこで一度言葉を切った。
「もちろん、それをやるのは……西の甲子社対東の鴨川だ」
「えっ!」俺たちが驚くのを見て、池田副会頭は楽しそうに笑った。
「さしずめ、対抗戦の第二ラウンドというわけだ」
「第二ラウンド?」
「わが甲子社が三年間、私の代になって一度も優勝できないというのは、いささか気に入らないのでね」
池田副会頭は豪快に笑った。
「互いに美術的な工夫を凝らす余地がある。まさに美術校対決に相応しいと思わないかね」
俺たちは何も言えない。
「それを、歴史ある神泉苑で行う」池田副会頭は続けた。
「上賀茂さんには申し訳ないが、今回はかつての東対西の雨乞い対決の再現することを前面に出したい。東と西の二校でやるほうが、話としてもわかりやすい」
「そんな……」天見がつぶやく。
池田副会頭は、俺たちを見渡した。
「この条件なら、やっていい。私が責任を持って準備を手伝おう」
俺は思わず聞いた。
「本当に……神泉苑を使わせてもらえるんですか?」
「そのために動くんだよ」池田副会と笑った。
「私もね、まさか本当に雨を降らせることができるとは思っていない」
そう言ってから、少しだけ表情を変えた。
「だが、若い高校生たちが、京の町のために歴史的儀式を再現し、対決する。今、君たちの言葉をそのまま世に問えばいい」
池田副会頭の目が、今度は本当に笑っていた。
「今、日本中が雨を待ち望んでるんだ。これほど時を得たイベントはないだろう」
そして、最後に付け加えた。
「そしに、これなら私たちにも利がある。十分、商売として成り立つ」
いかにも京都の商売人らしい言葉だった。
「どうだい、やれるかい?」
俺たちは顔を見合わせた。
伊山がうなずく。南條もうなずく。天見も、しっかりとうなずき、俺もうなずいた。
こうして俺たちは、雨乞いをすることになった。
しかも、俺たちが思っていたより、ずっと大きな形で。
京都の街を巻きこんだ、東西対決として。




