11 雨乞い 6
「そしたらさ、なんとこの雨乞いの話で盛り上がったらしくて」
「盛り上がった?」
「そう。今の若者に、なんとか京の伝統の心を残さないといけないって。若い世代にどうやって京の心を残していくかって、前からよく話題になっていたらしくてね」
伊山の話は、どんどん勢いを増していく。
「伝統儀式の復活、その再現として宣伝すれば、商売としてもいけるんじゃないかってことになったみたい」
俺たちは、ぽかんと顔を見合わせた。
「……商売?」
「そう。なんか、話が勝手に進んじゃったみたいなんだ」
「それって……神泉苑を使えそうってことか?」
俺が聞くと、伊山はうなずいた。
「うまく行けばね」
「ソラ、雨乞いできそうだし、OKよね」
天見も少しだけ表情を明るくした。
「あ、ちなみにその池田さん、甲子社高校の理事長でもあるのよ」
「え?」
「それに、西寺復興会の会長」
天見があきれたような、感心したような顔で伊山を見る。
「美紅、全部知ってて、仕掛けたんでしょ」
「まあ、人は心で動くもんだからね」
伊山は肩をすくめる。
「いや、この場合、損得勘定か」
「うわ、美紅がそこまで策士だったとは」
南條が笑う。
「でも、すごいじゃない。あの神泉苑が使えるかもしれないんでしょ?」
「それがね」伊山が少し苦笑いした。
「そう簡単じゃないんだ」
「え?」
「その池田さんがさ、今日にでも私たちに会いたいっていうの」
「今日?」
「うん。発案者であり、三校対抗戦勝利の立役者の私たちに、直接話を聞きたいんだって」
「えー!」俺たち三人の声が重なった。
というわけで、俺は伊山に言われるまま、すぐにアポイントを取った。
今日の十八時なら会える。場所は京都市商工会の事務所。四条駅前だから、学校から三十分はかかる。気づけば、もう五時になろうとしていた。
「時間がないぞ」俺が言う。
「とりあえず動きながら相談しよう」
俺たちは、どう話すんだ、何を話すんだとガヤガヤ言いながら、校舎玄関まで出る。
俺は、いきなり京都の大物と会うということで頭がいっぱいだった。
どう説得すればいい? この雨乞いには、いろんなことの命運がかかっている。失敗するわけにはいかない。
俺がそんなことばかり考えている横で、伊山は、
「まあ、なんとかなるっしょ」と、まったく動じていない。
おまけに天見まで、
「あ、忘れ物。先に行っといて」と言って、引き返す始末だ。
「おい!」
なんだか、俺一人だけが焦っている気がする。そのせいで、ますますテンパってしまった。
なんとか時間前に駅前ビルにある商工会の事務所へ着いた。
すぐに部屋へ通される。
そこには、割腹のいい男が黒い皮張りのソファーにどっかりと座っていた。
池田副会頭。
いかにも仕立てのよさそうなスーツを着ている。四十代だろうか。
俺が想像していたより、ずっと若い。
伊山の話では、何百年も続く京都の老舗の商店を大きく再興させた人物で、商工会の役員の中でも一番若い、やり手の実業家らしい。
だが、その目は笑っていない。
一人ひとりを、しっかり値踏みしている目だった。




