11 雨乞い 5
トビは、俺のマンションで預かることになった。
俺が仕事に出ている昼間が心配だったが、天見と相談し、天見がパンに様子を確認してもらうことになった。
あとは、小町さんのお札がどこまで効いてくれるか。それは、もう様子をみるしかない。
俺は、それからは毎日、朝と夜にパンとトビの世話をすることになった。
一週間が過ぎた。
トビは、小町さんのお札が力を発揮しているのか、小康状態を保っていた。
熱も薬のおかげで下がり、少しずつ元気も戻ってきている。
ただし、小町さんの作った結界からは絶対に出てはいけない。そのため、トビは少し大きめのダンボール箱の中で過ごしている。ストレスがたまるのだろう。トビはしょっちゅうガリガリとダンボールで爪を研ぐ。数日もすると箱はボロボロになり、俺は慌てて大きな爪研ぎを買ってやった。
自由にケージを出ることが公認されたパンは、最初のうちは心配そうにトビの周囲をうろついていた。猫の心配をする白黒ネズミ。なんとも妙な光景だった。ところが、今では別の意味で騒がしくなった。
結界から出られないトビをいいことに、パンがちょっかいを出すのだ。
トビが前足を伸ばせば届きそうなところを、わざと行ったり来たりする。そのたびにトビが、箱をガリガリ引っかく。
「パン、病人をからかうな!」
俺は毎日、こいつらに振り回されっぱなしだった。
そんな一週間の間、俺は神泉苑のことや、雨乞いについても自分なりに調べてみた。
神泉苑は、平安遷都とほぼ同時期に造られた、日本最古の禁苑の一つだ。皇族の庭園だった場所が、室町時代には東寺の管掌する雨乞いの道場となった。その後、一旦廃れてしまったものの、江戸時代に再興され、今は寺院となっている。歴史だけは、とんでもなく古い。
だが、そこを使わせてもらうとなると、話は別だ。何と言ってお願いすればいいのか。
それに、平安時代には広大だった神泉苑も、今では当時と比べものにならないほど規模が小さくなっている。小町さんがいた千年前の神泉苑と、今の神泉苑。
果たして、同じ場所としての力を持っているのだろうか。
一度、神泉苑まで行き、境内を使わせてもらえないかと聞いてみた。話の持っていき方次第では、可能性はありそうだった。だが、その話の持っていき方が難しい。
俺には、それをうまく説明する自信がなかった。
一方、天見もトビのこと、雨乞いのことと、難題が重なり、日に日に元気をなくしていた。
伊山や南條も心配している。だた、本人に聞いても、「大丈夫です」としか言わない。そのことも、俺には気がかりなことだった。
そんなときだった。
事態は、俺の想像を超えたところから動き始めた。
朝、学校へ行くと、伊山が俺たち三人を呼び止めた。
「放課後、話がある」
それだけ言うと、さっさと教室へ入っていった。
放課後、俺たちは実習室に集まった。
伊山は、俺たち三人がそろうのを待ってから、いきなり話し始めた。
「あの話さ。父さんに聞いてみたのよ」
「神泉苑のこと?」
「そう。神泉苑を借りるなんて無理かなって」
俺たちは顔を見合わせた。
「それで?」
「昔、東寺と西寺の雨乞い対決っていうのがあったみたいだけど、今できないのかって聞いたの」
伊山は楽しそうに話を続ける。
「この日照りで京都の観光もさっぱりだっていうから、それなら昔あった、空海の雨乞いを現代に再現してみるのはどうだって」
「空海の雨乞い?」
「そう。昔みたいに東西対決にすれば、みんな盛り上がる。大人が本格的にやるとなると色々あるだろうけど、私たちがやるなら、失敗してもそう問題ない」伊山は得意そうに胸を張る。
「若い私たちが、今の目線で雨乞いをやってみる。京の伝統を若い世代につなぐイベントとしても意味があるんじゃないのかって、適当に理由をつけて話したのよ」
「適当に……」
俺がつぶやくと、伊山は気にせず続けた。
「そしたら父さんが、今度、商工会の副会頭をやってる池田さんと会うから、あの人に聞いてやるよって」
「池田さん?」
「うん。その人、西寺復興会の会長もやっての」
俺は少し驚いた。
「それで?」
「昨日、父さんとその副会頭が会ったんだって」
伊山がニヤリと笑った。




