11 雨乞い 3
「その前に、小町さんにも診てもらおう」
俺が言うと、天見がはっとした顔をした。
「……そうですね」
取り乱していて、そんなことすら考えられなかったのだろう。
俺たちは公園で二人を待つ間、小町さんを呼び出すことにした。
スケッチブックを開く。現れた小町さんは、トビをひと目見るなり、顔を曇らせた。
「これは……やっぱり陰の熱にあてられたみたいね」
「陰の熱?」
小町さんはうなずいた。
「昔、同じようなものを見たことがあるわ」
小町さんによれば、平安時代、東日本大震災と同じような大地震が起き、東北の多賀城を大津波が襲い、大きな被害が出たことがあった。その災害を鎮めるため、神泉苑で祀りが行われた。それが後の祇園祭の起源となったという。
そのとき、小町さんは東北から来た被災者たちを見ていた。
「あのときの者たちも、同じような熱を身のうちに宿していたわ」小町さんは、トビの身体を見つめる。「体の表面は冷たいのに、体の芯に冷たい炎のような熱があった。その熱に命をどんどん吸い取られていくの」
「それで……みんな死んだんですか」天見の声が震える。
「動物は人よりも命の力が小さいから、先にその影響を受けるのかもしれないわね」
「じゃあ、トビも……」
「まだ何とも言えないわ」小町さんは天見を見た。
「でも、できることはある」
「できること?」
「そう。そのときのまじないを試してみましょう」
小町さんの指示で、俺たちは、スケッチブックの紙を使って、急ごしらえのお札を作った。天見が文字を書き込む。その札を小町さんの前に置くと、小町さんは指で印を結び、しばらく目を閉じて念じ続けた。
「これをトビのそばに置きなさい」天見が受け取る。
「これで結界を作るの。陰の気に触れるのを防ぐことができれば、これ以上の悪化を防げるかもしれない」
天見が、トビのタオルの下に、お札をそっと差し込んだ。
「とにかくこれで様子を見ましょう」小町さんは念を押すように言った。
「ただし、効いたとしても一時しのぎにしか過ぎない。それは分かっているわね?」
「はい」天見は頷いた。そして、また涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた。
そのときだった。
「ソラー!」
遠くから声がした。伊山と南條が、自転車でやってきた。
「どうした、暗い顔して。対抗戦のヒロインがそんな顔じゃ、みんな心配するぞ」
「そうだよ。最近なんか元気ないなあって、美紅とも話してたんだよ」
二人が駆けよって来る。天見はトビを見て、それから二人を見た。
「実はね……トビが」
天見が事情を話すと、二人は悲鳴を上げた。
「えっ、トビが?」
「嘘……」
俺の手の中でバスタオルに包まれているのが、そのトビだと知ると、二人はすがりつくように覗き込んだ。
小町さんのお札が効いたのか、トビは静かな寝息を立てている。
「そんな……何でトビが」
南條は目に涙が浮かぶ。伊山も悲痛な表情だ。
そんな二人を前に、天見はしばらく迷っていた。だが、やがて顔を上げた。
「二人に、話しておきたいことがあるの」
天見は、自分が神社の巫女の家系であることを話した。
そして、知り合いの巫女から聞いた話として、天と地の気の流れについて説明した。もちろん、小町さんの存在について話せない。そのため説明はところどころしどろもどろになった。
それでも天見は、何とか自分の知っていることを伝えようとした。
「あの『成らずの柿』の伝説に、実が成ると戦争が起きたっていう話があるでしょ」
二人がうなずく。
「あれ、本当のことだったの」天見は続けた。
「今、この世の中の気といわれる力の流れが悪くなっているんだって。悪い気がどんどん溜まって、もう破裂しそうになっている。それが今起きている日照りや、トビたちの病気にも関係しているんじゃないかって」
南條が黙ってトビを見る。
「陰の気が溜まって、熱になっている。そして、もう限界に近づいている」天見は一度息を吸った。
「だから、それを救うには、『雨乞い』の儀式をするしかないの」




