10 成らずの柿 7
「お祭り?」
「違うわ」小町は笑った。
「『祀り』よ」
「祀り?」
「天への祈りの儀式。多くの人の祈りを、儀式にのっとって天に繋げる。それが本来の『祀り』なの」
小町は、頭上のぎらぎらした太陽を見上げた。
「古来より、世が陰に満たされた時、人はそれを『穢れ』として捉え、それを払う儀式を行ってきた」」「雨乞いとか?」
「そう。天候が乱れれば雨乞いをする。疫病や天災が起きれば、御霊会を行う。天に祈り、気の流れを正そうとしてきたのよ」
「昔の人って、そんなことをしてたんだ」
「ええ」小町は遠い昔を思い出すように言った。
「古代の人々は、今よりずっと身近に天を感じていた。天の恩恵も、乱れもね。だから、世の中がおかしくなった時に、どうすればいいのかも、経験として知っていた」
「じゃあ、重衡様が言った『祀り』って……」
「大地を鎮めること。そして、地に満ちた陰の熱を冷ますこと」
小町の視線がソラへ向く。
「そのためには、天の雨によって地の熱を冷ます必要がある」
「雨……」
「そう。『雨乞い』よ」
ソラは木津川を見た。川は夕日を受けて赤く輝いている。
「実際、今の大地は旱魃で熱く熱を帯びているでしょ。これは物理的な熱だけではない。霊的な熱も、現生にまで力を及ぼし始めている」
「じゃあ、雨を降らせば……」
「霊的にも物理的にも、大地を冷ますことができるはず」小町は言った。
「ただし――」
「ただし?」
「規模が問題ね」小町の表情が険しくなる。
「今、必要なのは、この辺りだけに雨を降らせるようなものではない。国中に届くほどの雨。そうでなければ、この地に満ちた陰の熱は冷ませないわ」
「国中……」
「この京の都では、古くから国家規模の雨乞いや御霊会が行われきた」小町は続けた。
「その代表的な場所の一つが、神泉苑よ」
「神泉苑……」
「かつて朝廷の命によって、何度も雨乞いが行われた場所。あそこは歴史的にも霊場として知られている」小町は少し遠くを見るような目をした。
「天の窓となる場所で祀りを行わなければ、効果は薄い。だから今回も、神泉苑を使えるなら、それが一番いい」
「でも……」
「ええ」小町はソラの言葉を先回りする。
「今の時代に、そんなことができるのか。それが問題ね」
「どうすればいいの?」
「方法そのものは、過去の雨乞いを参考にすればいいわ」
「歌とか?」
「そう」小町は微笑んだ。
「歌には、祈りやまじないの力があるのを知ってる?」
「歌に?」
「我も何度も、雨乞いのために歌を詠んだわ。神泉苑でもね」
「小町さんが?」
「ええ」小町は少し得意そうに胸を張った。
「ただ……」その表情が曇る。
「これだけの陰の熱を持った大地は、我も見たことがない」
「そんなに?」
「ええ。かつて我が経験した雨乞いでは、とても足りないかもしれない」小町は黙り込んだ。
「今の時代でそれができるか……」
二人は、しばらく何も言わなかった。




