10 成らずの柿 4
「できたわね」小町の声が弾んだ。「たいしたものよ」
「重衡様」ソラは姿勢を正した。
「『成らずの柿』について教えていただけませんか」そして、まっすぐに重衡を見た。
「今、この世界がとても心配なんです」
重衡はソラを見つめた。
「確かに、この天地のありようには、これまでにない恐ろしきものを感じておる」
重衡の声は静かだった。
「まろにわかることならば、伝えよう」そして、ふと小町を見る。
「して、こちらの方は……」目を見開いた。
「もしや古に聞きし小野小町殿ではないか?」
「ええ」
「これは稀有なことよ。歌の話でも、ぜひ聞かせいただきたいものじゃ」
「今はそれどころではないでしょう」
「あ、これはすまぬ。『成らずの柿』のことであったな」
重衡は居住まいを正した。
「まずは、この天と地の理から話さねばならぬ」重衡はゆっくりと言った。
「天と地は、互いに通じ、影響しあっておる。どちらか一方だけでは存在できぬ。天あっての地、地あっての天じゃ」
「天と地……」
「人にわかりやすく申せば、天を神の世界、地を人の世界と考えればよい」重衡の目が、遠くを見るように細くなった。
「天の存在は、人に祈られることでその力を得る。地に生きる人は、天と通じることで、その恩恵を受ける。そうして両者の間を気が巡っておる」
「気が……」
「この地には、気脈がある。その流れが、ところどころで天とつながるのじゃ」重衡は続けた。
「昔は、神社や寺がその役目を担っておった。人々が祈り、祀り続けることで、天とのつながりは太くなっていった」
「じゃあ、今は?」
「薄れておる」重衡は憂いの表情を浮かべる。
「時とともに、人は天とのつながりを忘れた。祀る者も減り、祈りも減った。つながりが途切れれば、気は巡らぬ」
重衡は悲しそうに首を振った。
「この木津の地はな、この国の気の流れの要一つなのじゃ。ことに、この国の中心をなす大きな要衝であった」
「そんな場所だったの?」
「長い年月の間に、それも忘れられてしまった。この地を守る者も、どんどん減っておる」
重衡は周囲を見回した。
「この寺も、かろうじて気脈をつなぐ一助となっておるが……雀の涙よ」
重衡は小さく息をついた。
「まろでさえ、ここを守護する役を務め、長くこの地に居って、ようやくその理を知った。
忘れられていくのも、無理からぬことなのかもしれぬな」
「それが『成らずの柿』と関係しているんですか?」
ソラが尋ねる。
「ここからが、あの柿の話じゃ」重衡の表情が変わった。




