8 八月 三校対抗戦 9
俺は、勝利の瞬間、声を上げて立ち上がっていた。
試合結果は、全ての対戦が僅差の勝負だった。
エースの岡崎は、相手周坊会長と熱戦を繰り広げた。
動きだしは相手が早い場面が多くあったものの、その正確さと札を取る技はさすがだった。最後は経験の差で何とか勝ちきった。相手、周坊会長は、畳を叩いて悔しがっていた。
しかし、頼みとしていた柊、日野が立て続けに負けてしまう。
柊の相手、佐藤は、とにかく機械のように速い反応を見せた。
前半、圧倒的な差をつける。ところが終盤。突然、信じられないようなミスを連発した。
一度。二度。三度。
その間に、柊があっという間に追いついていく。だが、それもわずかに遅く、僅差での負けとなった。
日野・道里戦は、お互い一歩も譲らない、取っては取られての大接戦となった。だが、最後まで正確で手堅い相手にわずかに分があり、日野が負けた。
この段階で、一勝二敗。勝敗の行方は、残る二人、天見と伊山にかかっていた。
この試合で、番狂わせを起こしたのは天見だけではなかった。
大将戦、伊山対中村戦だ。
相手は、その派手なパフォーマンスで伊山と張り合った。だから、この二人の戦いが一番うるさく、会場を沸かせた。
伊山は例のごとく、オスカルになりきっていた。札を取った時には、思わず決めポーズまで始める。
それに対抗して、中村も同じように派手なポーズをやり返す。
この二人だけは、畳の上の格闘技というより、畳の上の劇場だった。しかも、それが本部に最も近いところでの対戦だ。俺は、いつ注意を受けるのかと冷や冷やしていた。
伊山は、スピードと勝負感で対等に戦っていた。この試合、彼女には、オスカルと運が味方したみたいだ。引きが良く、ここぞと言う時に自分の陣の札が続く。そこへ被せるようにオスカルの決めのポーズ。それが勢いとなって波に乗った。
あと一枚で勝利という時。
彼女の得意札、伊勢大輔の札「いにしへの」の札が相手陣にあった。
この時、「い」で始まる札、三枚すべてが残っていた。うち二枚が伊山陣。そしてもう一枚、相手陣にあるのが伊勢大輔だった。
伊山は、初めからこの相手陣の札を狙っていた。
読み手の口から最初の一文字、「い」が発せられた瞬間。伊山は、前の試合と同じように、再び一か八かで取りにいった。ここらが伊山の短気なところだ。
だが――。
今回は伊山の当たりだった。
「やったあ!」
伊山が勝利の雄叫びを上げた。
伊山が勝ち、そして最後に天見が決める。
誰も予想しなかった大穴二つが、見事、鴨高に勝利をもたらした。
両校が一礼をして、試合は終わった。
鴨高の、大会優勝が決まった。
表彰式で、甲子社の理事長から、日野が優勝盾と賞品の小野小町の絵を受け取った。
日野が盾を高く掲げる。会場が大きな拍手で包まれ、選手たちは嬉しそうに手を振って応えた。
式後、日頃冷静な岡崎が泣いていた。柊も嬉しそうだった。伊山は、やっぱりオスカル様が一番だと、熱く語っている。
天見は、みんなが嬉しそうなのを、にこにこと見ていた。
俺は、その後の打ち上げで焼肉を奢らされ、今月はまたまたピンチになった。
まあ大満足の大きな誤算だ。嬉しい悲鳴というやつだ。
こうして、今年の三校対抗戦は、我が校の歴史的な勝利、十一年ぶりの優勝で幕を閉じた。
ちなみに、パンは閉会式後にみんなのところにやってきた。
メンバーの歓待を受けた後、陰で天見からこっぴどく叱られていた。
後日、天見がパンの話を教えてくれた。
甲子社が機械を使う不正をしていたという話を聞いて、俺も大いに憤慨した。
だが、試合終盤。
みんなが試合に夢中になっている最中に、パンは甲子社の待機席に行き、陰に置かれていた例の機械のコードをかじり切っていたという。
それで、後半、佐藤のように機械に頼っていた選手たちが乱れたらしい。
ということは――。勝利の神様はパンだったのかもしれない。
最後に天見は、
「そんな相手に勝った自分たちは、やっぱ最高です」と、笑って報告してくれた。




