8 八月 三校対抗戦
特別な札を探して手間取ったため、札の場所を覚えきれていなかった。
だが、ソラはもう一度深く息を吸った。そのまま息を止める。心が落ち着くのを待つ。
――自分は、もともとこんなものだ。……ありのままの力でいい。
そう念じながら、ゆっくりと息を吐いていく。
頭の中を単純にする。過ぎてしまったことはもう考えるな。耳に全身の集中力を集め、動き出しにかける。
緊張と不安に心を持っていかれそうになる。
ソラは目を閉じ、読み手に意識を集中しなおした。
読み手が次の歌を読もうと札を取った。
その瞬間。
読み手の持つ札から、特別な風を感じた。
しかも、それと呼応するように、相手陣の一枚の札が、風でつながっているように感じた。
――あの札だ。
ここは、この感覚に賭ける。
ソラは読まれる前から、相手陣のその札をじっと見つめた。
そして、読み手が、
「な――」と発生した刹那。ソラは思い切って飛び出した。
『なげけとて 月やは物を おもはする』
相手陣深くへ、全身で飛び込む。札を払った。
やった。取った。
ソラは、その札を手に、震えるよう心持ちで席に戻った。
――ありがとう、西行さん。
――来たぞ、坊主札。
相手陣の札を取ったら、一枚自陣から相手へ渡す。
ソラは、自陣の中から、あえて気配を感じる札を渡した。
目の前、一番そばにあった自分の札を取られ、俵は驚きで固まっていた。
なめていた相手にいきなり足元をすくわれた。何が起きたかわからないといった顔だ。
この歌の決まり字は「なげけ」の三文字。「な」で始まる歌だけでも八首ある。それを一文字目から動いたのだ。会場も、その動き出しのあまりの速さに、驚きの声が上がった。
「やるな、ソラ! 私も行くぞ。わが心は自由だ!」
美紅の、よく通る声が横から聞こえる。すっかりオスカル調だ。ソラには心強い声だった。
ソラは、すでに次に備えていた。呼吸を整える。改めて、心を静かにピンと張る。
次の札も、ソラが取った。
今渡したばかりの札が来たのだ。またも相手陣から奪うことになる。
この神がかかった立て続けの二枚で、俵は大きく心を乱した。なぜ取られたのかわからない。
会場も大きくどよめき、ちょっとした騒ぎになった。
ソラは、そこから集中力を発揮して挽回していった。
時折出てくるソラの常識離れの動きが、強烈に効いた。
俵は額から流れる汗を拭う余裕もなく、集中力を取り戻そうと焦っている。
だが、一旦崩れたリズムはなかなか戻らない。その間に、ソラは着実に札を取っていった。
終盤。
ついに残り七枚ずつの同点に追いついた。




