↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/71

8 八月 三校対抗戦 

 特別な札を探して手間取ったため、札の場所を覚えきれていなかった。

 だが、ソラはもう一度深く息を吸った。そのまま息を止める。心が落ち着くのを待つ。

 ――自分は、もともとこんなものだ。……ありのままの力でいい。

 そう念じながら、ゆっくりと息を吐いていく。

 頭の中を単純にする。過ぎてしまったことはもう考えるな。耳に全身の集中力を集め、動き出しにかける。

 緊張と不安に心を持っていかれそうになる。

 ソラは目を閉じ、読み手に意識を集中しなおした。

 読み手が次の歌を読もうと札を取った。

 その瞬間。

 読み手の持つ札から、特別な風を感じた。

 しかも、それと呼応するように、相手陣の一枚の札が、風でつながっているように感じた。

 ――あの札だ。

 ここは、この感覚に賭ける。

 ソラは読まれる前から、相手陣のその札をじっと見つめた。

 そして、読み手が、

「な――」と発生した刹那。ソラは思い切って飛び出した。

『なげけとて 月やは物を おもはする』

 相手陣深くへ、全身で飛び込む。札を払った。

 やった。取った。

 ソラは、その札を手に、震えるよう心持ちで席に戻った。

 ――ありがとう、西行さん。

 ――来たぞ、坊主札。

 相手陣の札を取ったら、一枚自陣から相手へ渡す。

 ソラは、自陣の中から、あえて気配を感じる札を渡した。

 目の前、一番そばにあった自分の札を取られ、俵は驚きで固まっていた。

 なめていた相手にいきなり足元をすくわれた。何が起きたかわからないといった顔だ。

 この歌の決まり字は「なげけ」の三文字。「な」で始まる歌だけでも八首ある。それを一文字目から動いたのだ。会場も、その動き出しのあまりの速さに、驚きの声が上がった。

「やるな、ソラ! 私も行くぞ。わが心は自由だ!」

 美紅の、よく通る声が横から聞こえる。すっかりオスカル調だ。ソラには心強い声だった。

 ソラは、すでに次に備えていた。呼吸を整える。改めて、心を静かにピンと張る。

 次の札も、ソラが取った。

 今渡したばかりの札が来たのだ。またも相手陣から奪うことになる。

 この神がかかった立て続けの二枚で、俵は大きく心を乱した。なぜ取られたのかわからない。

 会場も大きくどよめき、ちょっとした騒ぎになった。

 ソラは、そこから集中力を発揮して挽回していった。

 時折出てくるソラの常識離れの動きが、強烈に効いた。

 俵は額から流れる汗を拭う余裕もなく、集中力を取り戻そうと焦っている。

 だが、一旦崩れたリズムはなかなか戻らない。その間に、ソラは着実に札を取っていった。

 終盤。

 ついに残り七枚ずつの同点に追いついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 ありのままの自分を受け入れることで心が落ち着くんだ。  逆に見下していた相手が予想外の動きをするとどんなに自信のあった人でも落ち着きをなくすんだね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。