8 八月 三校対抗戦 4
やがて、第二試合の開始時間が来た。
甲子社対上賀茂。
鴨高メンバーは、自分達の席から対戦を見ていた。
その時、みんなと観戦していたソラは、一試合目で感じた感覚のことをずっと考えていた。
試合中に何度か、札が読まれる時、心の中で風を感じたような気がしたのだ。
あれは、何だったんだろう。
ソラは、試合が始まったあの時、これまでに経験したことのない緊張と集中力に包まれていた。
並べられた札の配置を覚えようと、一枚一枚に意識を集中させていると、周りの音が消えていった。
その時だった。
札の中に、他とは違うものがあるように感じた。その札から、風が吹いてくるような感覚。
意識を向けると、その札が自分を主張しているような気がする。
そんな札が複数あった。自分の陣に二枚。相手の陣に二枚。
そして、その札を読み手が読みだすと、その感覚がさらに強くなった。
――自分はここだ。
札が、そう主張しているようだった。
札から風を感じる。何か、こういうの、昔あったような。
ソラは懸命に思い出そうとした。
そして、やっと今思い出した。
――あの感じ、坊主めくりだ……。
ソラが小学校二年の時、百人一首を使った「坊主めくり」が流行ったことがあった。担任の先生に教えてもらい、一時期、学校でよくやった。
その時、ソラはなぜか、次の札が坊主の札だとわかることがあった。
坊主札をめくると、手持ち札を全部吐き出さねばならない。負けず嫌いだったソラは、坊主の札がとにかく来てほしくなくて、
――来ないで、来ないで。
一生懸命念じていた。
すると、次にめくる札が坊主だとわかることが何度かあった。めくる前にそれが坊主だとわかった途端、まだ幼かったソラは泣き出した。周りの子たちは訳が分からない。
ところが、めくってみるとほんとうに坊主だった。男子から「坊主のソラ」とからかわれたこともあった。まあ、すぐにその男子は、ソラの回し蹴りの洗礼を受けることになったのだけれど。
ソラは、小学校低学年までは、口よりも手や足が先に出てしまうところがあった。今はさすがに抑えている。
あの時は、なぜそれがわかるのか、自分でも不思議だった。でも、さっきの試合で感じたのは、それと同じ感覚だった。
ソラは、持っていた練習用の百人一首を取り出した。
絵札の方をめくり、さっき特別に感じた札を思い出して確かめてみる。
やはり、その札は坊主の札だった。しかし坊主以外も混じっている。それは歌の勉強をしてきた今ならわかる、六歌仙と言われる名人の歌だった。
ソラは四枚を目の前に並べた。
練習用の札を見ても、今は何も感じない。
さっきと今は、何が違う?
試合の特別な緊張。そして、――札。
試合用の札は、特にいい物だった。
――あれって、もしかしたら歌の作者に何か感じてたのかな。自分との相性みたいなのもあるかもしれない。
小さい頃は、とにかく坊主札がきて欲しくなくて、一心に念じた。そのせいで、その作者のものを感じることができたのだろうか。
ソラは、自分の力について考えた。
絵を通して感じたり、呼び出したりできるのは、動物か、魂のこもった作品。
その中でも、自分と相性があうものに限られる。
魂のこもったものなら、作品そのものと心を通わせることができる。
だったら――。
それなら、和歌は?
何百年もの間、人の心を動かしてきた歌。もし、その中に自分と相性のいい歌があるなら。
その歌を、札から感じ取ることができたら――。
試合で使える。
ソラは、じっとその坊主札を見つめていた。
練習用の札は量産品だが、丁寧に作られた試合用の札なら……。
「ソラ、やばいな。上賀茂が、こんなにあっさりとやられるなんて」
美紅の声に、ソラは我に返った。
中央の試合場を見る。
試合が、予想を超える早さで終わろうとしていた。




