8 八月 三校対抗戦 3
その一時間ほど前。
カバンの中には、密かに家からついて来ていたパンがいた。
こういう人混みなので、当然ながら留守番の予定だった。だが、パンにしてみれば、もうケージは簡単に開けられる。ちょっとみんなの応援に来たかっただけだ。
こっそりカバンに潜り込んでいた。
会場に着くと、持ち前の好奇心でカバンを抜け出し、天井裏をうろうろと探検していたパンは、学生たちが集まる部屋を見つけた。
換気口の隙間から覗いてみる。どうも鴨高とは違う。
話声を聞いていると、どうやら甲子社の生徒たちの控室のようだった。
敵はどんな奴らだ。
そう思って話を聞いていたパンは、とんでもないことを耳にした。
「なんとか今日に間に合った。これが、うちの会社で特別に開発してもらったものだ」
真ん中にいた、ちょっとキザな男が話している。
「まず、この骨伝導イヤホンをつけてもらう。小さいから片耳の中に入れとけば、問題ないと思う。そうすると、こっちの装置で、読み手の発声を捉えて、AIが素早くその下の句を伝える仕組みだ」
男は器械を指さした。
「ただ、これはあくまでも万一のためだ。機械に頼るとかえってパフォーマンスが落ちる者もいると思うから、まあ、うまく使ってくれ」
パンは目を丸くした。
これは、すぐみんなに知らせなきゃ。
慌ててソラたちを探したが、広い天井裏をうろうろしている間に、第一試合、鴨高の試合が始まってしまった。
鴨高の試合が終わり、やっと伝えられる。そう思って、パンはソラたちのもとへ行こうとした。
その時だった。
「きゃー、ネズミ!」悲鳴が上がった。
あたりの人たちが何事かとそちらを見る。
一人の女生徒が指差しているところに、一匹のネズミがいた。しかも、パンダ柄の大きなネズミだ。
たちまち観客席は大騒ぎになった。人が一斉に集まってくる。
パンは素早く物陰に隠れた。かくれんぼなら、お手のものだ。でも、これではソラに話ができない。天井裏に上がったパンは、しばらく下へ降りることができなくなってしまった。
*
「あれ、なんかあっち騒がしいね」
天見が体育館出口の方を見た。何だかネズミがいたと騒いでいる。
「こんな立派な建物でもネズミが出たりするんだ。うちとあんまり変わらないわね」
「おいおい、いくら何でも、うちのぼろ校舎と比べたらあかんだろ」
岡崎の言葉に、日野が突っ込む。
俺はふとパンのことを思い浮かべた。だが、まさかここに来ているとは思っていなかった。




