7 会場校 甲子社高校 3
みんなと京都駅で別れたソラは、帰りの乗り場へは向かわず、目的もなく改札を出た。
家には、大会の下見と練習で一日かかるかもしれないと言ってある。
ソラは、さっきの電車で見た光景にひどく動揺していた。
帰りの車内に空席はなかった。
そばに五歳くらいの男の子と、その兄らしい中学生が立っていた。
ぐずりだした小さな弟に、兄がなだめるように声をかけた。
「わかったから。おんぶと抱っこどっちがいい?」
その言葉を聞いて、ソラは愕然とした。
ぐずる子を怒らない。なんで?
たったそれだけのことが、ソラには理解できなかった。
そして、すぐに自分で気付いてしまった。
自分なら、ぐずる弟を怒っただろう。もしかしたら、叩いてでも静かにさせるかもしれない。そう思った自分に、ソラは震えた。
――自分とこの子たちは違う。――自分は、違う側なんだ。
高校へ入って、美紅たちと一緒にいるうちに、ソラの中に少しずつ生まれていたものがある。自分も、みんなと同じようにしていい。そんな、何か温かいもの。それが、幻のようにくずれていく気がした。
そんな思いに囚われたまま、ソラは京都駅を出た。
京都駅前は人で溢れ渦巻いていた。
スーツケースを転がす観光客。外国人。修学旅行生。
ソラは、怖いものから目をそらすように、その雑多で熱を持った人込みの中へ身を任せた。
何も考えずにただ足を運んだ。
人混みの中を流されるているうちに、頭の中に様々な過去が次々と湧き上がってきた。やがて、小さい頃、雑踏の中を歩いた夏の夜のことが頭を満たした。
幼い頃の、数少ない光のような思い出。ソラは、その光にしがみついた。
夏祭りが嬉しかったなあ。
夜店で一つだけ買っていいと言われ、どの店にしようか、なかなか決められず歩いた。
浴衣姿の華やかな人混み。裸電球のまぶしさ。
後ろから滝さんが、迷子にならないようにと一生懸命ついてきてくれていた。
でも、その思い出は、すぐに苦い現実へとつながってしまう。
さんざん迷って、やっと一つ決めたのは、くじ引きだった。
当たったのは、ハズレの笛。
口でヒューっと吹くと、巻かれた紙がスルスルと伸びて、くるくると巻いて戻ってくる。最近になって、あれを「巻き戻し」というのだと知った。
家に帰ってからも笛が面白くて遊んでいると、母さんに言われた。
「夜にうるさい! どうせハズレなんだろ。この子は、まったくお金の使い方も知らないんだから。ほんと、どうしようもない子だよ」
笛はゴミ箱に捨てられた。
さっきまで楽しかった。
なのに、あんなくじ引きをしてしまった自分が、ひどく嫌になった。
そして、いつの間にか、また昨晩の母の言葉がぐるぐると頭から離れなくなっていた。
ソラの身体は、どんどん重くなった。動くことさえ、しんどい。
――結局、私も母さんと同じなんだ……。




