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29/71

7 会場校 甲子社高校 2

 対戦は、大将が岡崎、副将が日野、三将に伊山、四将が天見という布陣だ。

 相手は、大将に髪を青く染めた帰国子女の道里。副将は佐藤という黒縁メガネ。三将は中村ダニエルというアメリカ育ちで、まだ発音が慣れていないという感じだ。四将は、さっきの俵。三年の副会長だという。周防会長は不戦勝で、今日は出ない。俺は、みんなを後ろから応援するだけだ。

 持ち札二十五枚ずつ。三段に並べた札をはさんで向かい合い、両校のメンバーは一礼する。

 右端の天見が、やたら緊張している。

 天見の前には、長い髪を後ろにくくった俵。

 天見の手が少し震えているのを見て、俵が右頬だけで笑った。

「それでは、始めます」

 周防会長の声で、自動で読み上げのスイッチが入れられた。

 序歌が始まる。

『難波津に(なにはづ)――』

 畳の上に、緊張が走った。

『せをはやみ――』

「せ」の一音が聞こえるやいなや、バンッ、バンッと畳を打つ音が響いた。札が飛ぶ。

 天見は動けなかった。

 目の前にあったはずの札が、いつの間にか消えている。

「われてもすゑに あはむとぞおもふ」

 俵が取り札を手に戻ってきた。

「読み手」が下の句を繰り返して読む間、天見は手のひらの汗を膝でぎゅっと拭いた。

 心を整える間もなく、次の歌が読まれ始める。

 全選手が眼前の畳に意識を集中させる中、バンッ、バンッと札を払う音だけが響いた。

 そして、試合は終わった。

 終わりの礼をしても、鴨高の二人、天見と伊山は顔をすぐに上げなかった。

 伊山は戻ってくるなり、派手に畳に突っ伏した。天見はうつむいたままだ。

 岡崎が声をかけて回る。それでも天見は、声も出ないほどだった。

 日野はいい勝負だったが、天見と伊山はコテンパンだ。

「やっぱ、負けると悔しいな」伊山が、ボソッと言った。

「うん」天見は、それだけ言うのがやっとだった。

 こういう時は、変な慰めよりも、この悔しさを次に繋げることが大事だ。

 俺がちょっといい一言でも言おうとしていると、日野が、

「先生、反省会しましょ。もちろん先生の奢りで。なあみんな、帰りに先生が奢ってくれるって」

 それを聞いて、しょんぼりしていた伊山が途端に復活する。

「先生、私、チョコパフェがいいです! 来る途中にあった駅前の喫茶、あそこの美味しそうだったでしょ」

 こいつら……。まあ、仕方ないか。

 いつもの賑やかさを取り戻した一行は、甲子社校を後にして駅まで歩く。

 俺は、その一番後ろをのんびりとついていった。

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― 新着の感想 ―
 鴨高生以上に自由度の高い甲子社高生。そのせいか何となく大人びている感じで、肯定感が強く自信がうかがえる。  なんか鴨高生がかわいく思える。
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