7 会場校 甲子社高校 2
対戦は、大将が岡崎、副将が日野、三将に伊山、四将が天見という布陣だ。
相手は、大将に髪を青く染めた帰国子女の道里。副将は佐藤という黒縁メガネ。三将は中村ダニエルというアメリカ育ちで、まだ発音が慣れていないという感じだ。四将は、さっきの俵。三年の副会長だという。周防会長は不戦勝で、今日は出ない。俺は、みんなを後ろから応援するだけだ。
持ち札二十五枚ずつ。三段に並べた札をはさんで向かい合い、両校のメンバーは一礼する。
右端の天見が、やたら緊張している。
天見の前には、長い髪を後ろにくくった俵。
天見の手が少し震えているのを見て、俵が右頬だけで笑った。
「それでは、始めます」
周防会長の声で、自動で読み上げのスイッチが入れられた。
序歌が始まる。
『難波津に(なにはづ)――』
畳の上に、緊張が走った。
『せをはやみ――』
「せ」の一音が聞こえるやいなや、バンッ、バンッと畳を打つ音が響いた。札が飛ぶ。
天見は動けなかった。
目の前にあったはずの札が、いつの間にか消えている。
「われてもすゑに あはむとぞおもふ」
俵が取り札を手に戻ってきた。
「読み手」が下の句を繰り返して読む間、天見は手のひらの汗を膝でぎゅっと拭いた。
心を整える間もなく、次の歌が読まれ始める。
全選手が眼前の畳に意識を集中させる中、バンッ、バンッと札を払う音だけが響いた。
そして、試合は終わった。
終わりの礼をしても、鴨高の二人、天見と伊山は顔をすぐに上げなかった。
伊山は戻ってくるなり、派手に畳に突っ伏した。天見はうつむいたままだ。
岡崎が声をかけて回る。それでも天見は、声も出ないほどだった。
日野はいい勝負だったが、天見と伊山はコテンパンだ。
「やっぱ、負けると悔しいな」伊山が、ボソッと言った。
「うん」天見は、それだけ言うのがやっとだった。
こういう時は、変な慰めよりも、この悔しさを次に繋げることが大事だ。
俺がちょっといい一言でも言おうとしていると、日野が、
「先生、反省会しましょ。もちろん先生の奢りで。なあみんな、帰りに先生が奢ってくれるって」
それを聞いて、しょんぼりしていた伊山が途端に復活する。
「先生、私、チョコパフェがいいです! 来る途中にあった駅前の喫茶、あそこの美味しそうだったでしょ」
こいつら……。まあ、仕方ないか。
いつもの賑やかさを取り戻した一行は、甲子社校を後にして駅まで歩く。
俺は、その一番後ろをのんびりとついていった。




