1 大器晩成の四月 3
新入生を迎えて一週間。
学校生活や教科選択のガイダンスも終わり、いよいよ新入生歓迎会の日がやってきただ。
歓迎会といっても、実態はほぼ部活紹介だ。ただし、俺にとっては別の意味で重要だった。この学校に赴任したばかりの俺が、生徒会の担当になってしまったからだ。
去年までもっていた日本画指導の西山先生が、「やっぱりこういうのは若い者に任すよ」とか言って、赴任した初日、わけもわからないうちに、俺は担当になっていた。
この学校の部活は、どこも本格的な運動部というより同好会に近い。生徒たちの本命はあくまでも美術。放課後になれば、部室より美術実習室のほうがよぼど賑わっている。
だから俺は、生徒会担当を引き受けた時点では、たいした仕事じゃないと思っていた。
そんな中、生徒会執行部を受け持つと決まった俺に、中倉先生が教えてくれた。
「うわ、葉山先生。生徒会引き受けちゃったんだ。まあ、先生、独身で時間ありそうだし、なんといっても若いから、いいかもね。うん、今年の対抗戦、少しは期待できるな」
「どういうことですか、中倉先生」
俺が詰め寄ると。中倉先生は、にやりとして話してくれた。
京都市内にある三つの美術系コースを持つ学校、上賀茂高校、甲子社高校と、わが鴨川高校は、毎年夏休みに交流戦を行っているのだという。
「京都市内の上賀茂高校、甲子社高校と、うちの鴨川高校。この三校で、毎年夏に交流戦をやってるんですよ」
「交流戦?」
「もともとは美術の交流から始まったらしいんですけど、今では美術とは関係ない競技で競うんです」
「へえ」
「しかも、前年の最下位校が競技を決める」
「なるほど。それで?」
「うち、十年くらい優勝してません」
「……なるほどね」
「他の二校は、応援なんかも、力入ってるんですけどね。うちはなんとものんびりしてるというか」
「はあ、なんとなくわかる気がします」
「ですから、メンバー集めが、一番苦労するかもしれませんね」
中倉先生は、にこりと笑った。
「と、うわさをすればですよ。うちの生徒会長があそこに」
中倉先生の目の先を見れば、職員室の入口に、すらりと背の高い、やたら華やかな女子生徒が二人、こちらを見ていた。目があうと二人そろって深々と見事なお辞儀をされた。
やってきたのは、三年生の生徒会執行部の二人だ。ショートカットに大きな目がキラキラした凛々しい立ち姿。生徒会長の日野咲良々(ひのさらら)。そして、日野よりさらに背も高く、銀縁眼鏡に涼し気な眼差しは、副会長の岡崎結愛だった。
そんな二人から色々教えてもらいながら、俺は生徒会に関わることになった。
最初の行事は、すぐにある新入生歓迎会だ。
よくわからないまま、生徒会の打ち合わせに参加する。
今年の生徒会メンバーはしっかり者がそろっているようで、俺はほとんど、ああだとか、うんだとか言ってるだけ。執行部の三人が各部に指示し、段取り良く進めるのを見ているだけで良かった。
週末の金曜の午後。新入生歓迎会が始まった。
ところが、始まってみると、これが意外に面白い。
テニス部はボールを使ったジャグリング。アニメ研究会は本格的な寸劇。ダンス部に至っては、いつ練習したのかと思うほど息が合っている。
普段は同好会に毛が生えた程度に見える連中が、こういう時だけは妙に本気を出す。
「こいつら、何をやってるんだか……」
思わず笑ってしまった。
でも、こういう学校も悪くない。
暗幕をひかれた薄暗い体育館会場は、スポットライトの光で、舞台だけが鮮やかに浮かび上がる。フロアは、前に一年生、その後に二、三年生という配置で、会場は賑やかに盛り上がっていた。
前から全体を見ていた俺は、自分のクラス、一組の生徒が、こっそりと抜け出そうとしているのに気付いた。




