6 七月の居候 3
今日は柊もそろって全員参加だった。
今日から夏休みに入っている。七月もあとわずか、八月六日の対抗戦も迫ってきて、メンバーは連日、和室に集まり追い込みの練習に入ることになっていた。
古い校舎の和室には冷房がなく、暑さのまだマシな朝早くから午前中だけの練習になっている。普通教室なら冷房が効いているので、なんとかそっちに畳だけ持っていって練習場を作ることを考えないと、もうもちそうにない。
今年の夏は全国的に「観測史上初」の言葉を毎日のように聞く、尋常でない猛暑だ。雨もあまり降らない空梅雨だったから、ニュースでは早くも水不足で、水瓶となるダムがすでに干上がったと騒いでいる。
朝八時、すでに三十五度を越す日差しが窓から差し込み、畳をジリジリと焦がす。
ここまで暑いと、ほんと、日差しが暴力的だ。外で鳴くクマゼミの合唱が、早くも絶好調で、校舎の窓からすごい圧で入ってくる。俺の子供の頃って、クマゼミなんて聞かなかったよなと思う。和室には扇風機が2台置かれているが、ねっとりとした空気をかき回してるだけで、汗がいくらでも噴き出て、タオルを手放せない。タオルはみんな複数持ちだ。
今日は全員そろっているので、俺の出番もそんなになく、みんなの後ろからチャチャを入れながら練習を見ている。
「今日はね、暗記の仕方について考えてみようか。例えば試合の最初、暗記の時間は十五分、美紅、あなたはどの札を覚えてる?」
「え、とにかく全部だろ。自陣から初めて、相手の所にどんな札があるか。あと、自分の得意札は確かめてるけど」
「全部を覚えようとしなくてもいいわ。大事なのは、確実に取れる札を作ること。敵陣、相手陣、どの札に意識を振り分けるか。それが自分のスタイルになるの」
「あ、確かにわかるよ。私なんか相手陣にある得意札は絶対渡さないぞって思ってるから取れるんだけど、逆に自分のそばにあった札を取られたりするよ」
伊山がそう言う。
「そう、強く暗記して意識する札は、漠然と全てを覚えようとするのじゃなく、どちらかに重点を置いて、しっかり覚える札を絞った方が取れる確率は高いってこと。
そこで考えておくことは、相手陣と自陣とどちらにどう意識を振り分けるか、どちらをメインで覚えるかね。それが自分のスタイルと言っていいわ。美紅、あなたは相手陣を中心に考える攻撃型ってとこかな」
「おう、いいね。相手陣の札、取れた時ってのは最高だからな。やった! って感じだもん。それに、うまくいくと相手のダメージは自分のよりでかいからな。ソラは、どうする?」
「わたしは、やっぱり自分の守りは固めたいかな。取られるの嫌だもん」
「そうね、それぞれ自分にあったスタイルで集中する所を決めると、より確実性が増すのよ」
「ちなみに岡崎先輩はどっちなんですか」
「私はね、その時の状況によるかな、流れでも変わるしね。戦法ってのはどこまでも奥があるのよ。
じゃあ、今のこと意識して、暗記やってみようか」
「よし、やるぞ、柊、勝負だ」
伊山は、今日も朝から気合いが入っている。天見は、日野とだ。
「さあ、ソラ、勝負よ。そうね、負けた方が変顔するっていうのは、どう?」
「日野先輩、それだけはご勘弁を〜」
天見は、畳に平伏して悲鳴をあげている。
結局、天見は、日野に大差で負けた。
「変顔は、できません!」と騒いでいたが、彼女も、ここでは、いつも以上にのびのびとしているように思える。
続く二回戦、天見は伊山に接戦の末勝った。かるたは手持ちの札の得意不得意や読まれた札がどっちにあるかなんかでも勝敗が分かれるから面白い。だが自力が大事なのは当たり前で、そこは皆わかっており、家でもそれぞれ随分頑張っているようだった。
みんな熱心に、そして大騒ぎでの練習が終わる。
最後に岡崎がみんなに向かって檄を飛ばした。
「みんな、家でも札を取る自主練続けてね。手が反射的に出るよう。何度もやることが大事よ」
みんなは、一様にうなずく。
「いよいよ大会まであと二週間となりました。それで明日、会場の下見に行きたいと思います。行ける人は参加してください。じゃあこれで終わります」
岡崎が話し終えた途端、みんなが一斉にパンの周りに殺到し、大騒ぎになる。
パンは、学校へ来ると、放任してもいいと三人が言うので、練習中は自由にしている。時々、どっかへ消えていることもあるが、天見たちが、呼ぶと必ず戻って来る。パンはものわかりが尋常でないくらいよく、まるでこちらの話すことがわかっているように思えることが度々あった。
俺がみんなとは少し離れて缶コーヒーを飲んでいると、天見がやって来た。
「先生、パンのこと、ごめんなさい」
いきなり頭を下げられ、俺が何のことだと戸惑っていると、
「パン、昨日、外へ出ているのバレちゃったって、随分落ち込んでました」と言う。
「どういうことだ。なんで天見、それを……、あっ」
そこまで言って俺は思い出した。天見が絵に呼び出せるってことを。
「天見、お前、パンも呼び出せるのか?」




