6 七月の居候 2
翌日は、夏休み前の学校最終日だった。
待ちきれないとうずうずしている生徒たちに、生活上の注意といった、ほとんど力のない釘をガンガンとさすと、チャイムと同時に解放してやった。
生徒たちは、一斉にどやどやと解き放たれていく。明日からは夏休みだ。教師も休みじゃないが気分が違う。やっぱりいいもんだ。
その日、俺は仕事が終わると中倉先生のちょっと一杯の誘いも断って直帰した。
全速で自転車を走らせる。
マンション二階の自室へ階段を三段飛ばしで駆け上がると部屋の扉の前で、俺はひとまず呼吸を整える。そして、そっと扉を開けた。
覗き込んで中を伺うが、静まり返った室内は見たところいつも通りだ。
リビングに入って灯りのスイッチを入れた。
朝出た時の乱雑な風景が白い蛍光灯の下に浮かび上がる。
今日は変わりないか。
ふうう、と一息つくと俺はリュックを置きケージに近寄る。
「パン、元気だったか……」
と言いかけた声が止まり、俺はそれを見た。
パンがケージの外、入り口のそばで固まったようにじっとしていた。
お前……
朝、出かける前、俺はケージの扉にクリップを仕掛けておいた。扉の下にクリップを曲げて引っ掛け、扉が一度開くと、引っかかって閉められないようにしておいたのだ。
そのクリップが引っかかって、扉の外にパンが締め出されている。
「パン、お前、自分で外へ出たのか?」
俺はそう口にしながら、自分でも変なことを言っていると思った。
だが、パンの方は明らかに動揺を見せ、うつむいてキョロキョロと挙動不審な様子だ。
俺は、そっと手を伸ばしこの曲者を確保した。本人はすでに観念したのか逃げる素振りも見せず、大人しくなすがままだ。俺は捕らえたパンを目の前に持ち上げ、じっくりと眺める。俺の無言に耐えきれなくなったのか、パンが「キュイ~」と、か細い声を出した。俺はその情けない声に笑えてきて、パンをケージに戻してやった。
パンはコソコソと巣の中に潜り込んだ。
今までも、こいつは外へ出ていたっていうことか。いや、いつも扉のバーはきちんと差し込まれていたぞ。まさか、自分で閉めている? 賢いとは思っていたが、こいつ、そんなことまで出来るっていうのか。
これが目の前の事実だ。俺は、しばらく言葉が出なかった。
天見たち三人との約束で、パンは週に一度は学校へ連れて行くことになっていた。
いつも、こっそり俺のリュックの中、菓子箱に入れて来るのだ。初めは逃げられたら困るとしっかりした金属の缶に入れてみたりしたのだが、パンは逃げもしないということがすぐにわかり、今では俺が学校へいく前に、この紙箱を出すと、自分でさっと入り込むほどだ。
パンはすっかり、我がかるたチームのアイドルになっていた。最近では、週末の練習に「先生は帰ってもいいから、パンだけは連れてこい」と言われる始末だ。
七月二十二日。八月六日の対抗戦まで、あと二週間ほど。
今日も土曜午前の練習に、俺はパンを連れてブラブラと自転車に乗って学校へ来た。昨日のことで、パンは異様におとなしい。




