5 六月の暑すぎる仰天 3
「それは、ちょうど一年前です。中三になったばかりの頃でした」
天見は、少し遠くを見るような目をした。
「祖母の滝さんが亡くなったんです」
滝さんは母の実母で、近所に一人住まいをしていた。小さい頃、必要以上に祖母に懐くことを嫌がった母は祖母宅に行くことを禁じた。
「それでも、学校帰りに、こっそり寄ってたんですけどね」天見は少し笑う。
「母さんに見つからないよう、三十分だけでしたけど……」
天見は、思い出すように窓の外を見た。
祖母の家の縁側に座り、ほんの少しの間、お菓子を食べたり学校の話をしたりする。それだけだったが、それは他に代えられない大切な時間だった。
それが突然終わりを告げる。
滝さんが体調を崩し入院してしまう。そして、わずか三ヶ月後に滝さんは亡くなった。
結局、祖母が入院しても見舞いにも連れて行ってもらえなかった。次に祖母の顔を見たのは通夜の席、狭い中で静かに眠る滝さんの姿だった。
滝さんの顔は穏やかだった、ほんとに眠っているだけのように。その白い顔は、今も忘れられない。あれほど好きだった滝さんが亡くなったのに、滝さんが煙となって空へ消えても、ソラは泣かなかった。
それからひと月ほどした時、いつもより早く学校が終わったので、久しぶりに滝さんの家に行ってみた。
滝さんの家は門が閉ざされたままで、同じ場所とは思えないほど薄暗く生気がなかった。ソラは、しばらく家の生垣の根元に座り込んで、ぼんやりとしていた。白い小さなスズランの花が頭を垂れるようにして生垣の影に咲いていた。
――この花、滝さん好きだったな。今年の花、見れなかったね。
……いけない、もう帰らなくっちゃ。
と思った時、生垣からガサガサと一匹の猫が出てきた。
こちらをじっと見る猫と視線があった。その猫は、やがてくるりと向きを変え、生垣の向こうへ姿を消してしまう。
その夜、なぜかその猫のことが心に残ったソラは、一人、部屋でノートに落書きのように猫の絵を描いていた。ノートに描かれた猫の絵。
ソラは絵を描くのが小さい頃から好きだった。そして、その絵を一番褒めてくれたのが祖母の滝さんだった。
夏休みの作品が賞をとった時も、母さんは何も言ってくれなかったが、滝さんは自分のことのように喜んでくれた。
あの時の滝さんを思い出した途端、これまでずっと泣けなかったソラの目に、涙が溢れた。
その時だ。
自分の描いた落書きの猫が動いて見えた。
はじめは、涙のせいかと思った。だが、絵の猫は生きているようにノートの中で自由に動き続け、こちらを見上げてこう言った。
「お前、なんで泣いてるんだ」
それが、野良の三毛猫、トビとの出会いだ。
トビとは、なくてはならない友達になった。
他の動物も描いて試してみたが、トビのように動くことはなかった。
いろいろ試してもできなかったので、トビだけが特別なのかと思い出したころ、近所の神社の狛犬で突然成功する。
狛犬を見たとき、これはいけると感じたのだ。
狛犬がこちらを呼んでいる、そう感じてすぐにその場で描いてみると、狛犬は動き、話ができた。
「うちの近所の神社の狛犬さんがね、やたら昔のことに詳しくて面白かったんですよ」
思い出し笑いをしながら楽しそうに天見は話してくれた。




