5 六月の暑すぎる仰天 2
絵画実習で汚れた机の上に、緑のスケッチブック。そこに描かれた三毛猫。
そうか、さっき見たのはこれだったのか。天見がこんなに絵が上手いとは知らなかった。でも、この絵が見えるかと言われても、見えるのは当たり前のことだろ。何を言っているんだ。
そう思いながらも、俺は、今にも動き出しそうな猫の絵に不思議な魅力を感じ、見つめていた。
あれっ?
一瞬、自分の目を疑った。今、絵の猫が動いたように見えた。
瞬きも忘れてじっと見いる。
うわ、今、猫の髭が揺れた!
次の瞬間、猫が何かの殻を破ったかのように、突然身体全体を動かした。
画用紙の中で、三毛猫は前へ足をグッと伸ばし、大きく伸びをするときちんと座り直して、こちらに視線を向けた。そして、
「おい、こいつは何だ?」
俺と猫は同時に喋った!
喋った? 猫が? そう俺にもわかる言葉だった。
「やっぱり先生、トビのこと見えるんですね。すごい、すごいよ、先生」
天見が嬉しそうに声を上げた。だが、俺はなんのことかわからず、目の前のこいつをまじまじと見つめる。
スケッチブックの白い紙の上に、描かれた1匹の猫のデッサン。その鉛筆で描かれたモノクロの猫が、白い画用紙の中で動いている。アニメのように、アニメというより、モノクロ動画のリアルさがある。明らかにこの猫は生きているように見えた。天見が描いていたときは確かに絵だった。いくら上手くても絵は絵だ。それが動いたとしてもやはり絵とわかる。だが今、目の前で暇そうに前足を舐めているこいつは、モノクロだが生きている猫そのものだった。
「この猫、生きてるよな」
俺が恐る恐る手を伸ばそうとすると、猫がこちらをジロリと見たのでやめた。
俺は、自分の目で見たもの以外は信じない。幽霊やらUFOも、見たことがないから、今は信じてはいない。
だが――今、目の前にいる猫は、俺自身の目で見ている。
三毛猫は、手を舐めるのをやめると、くつろいだように寝そべり、薄目でこっちを見ている。
こいつは確かに生きている。俺はそのことを不思議なほど素直に信じた。これがどういうものなのかというのは別の問題だ。
「さっきは突然先生が来たもんだから慌てて、トビ、飛んで逃げちゃったんです。けど、私のこれ、今まで偶然誰かが見たとしても、その瞬間消えちゃってたんで、他の人には見えないもんだって思ってました。だから、見える人って初めてで……」
天見はどこか嬉しそうに俺を見る。
「信じられないかもしれないけど、私、これはって思えたものを、こうして絵に呼び出せるんです」
それから天見は、とつとつと自分の、その不思議な力との出会いについて語り出した。




