3 対抗戦へ向けて 5
その日から伊山や天見たちが、時間があれば単語カードを出して決まり字や歌を覚えるのに精を出している姿を見るようになった。たまに放課後の練習を見に行くと、いつも和室には誰かがいて練習をしていた。
今日も日野、岡崎、伊山、天見の四人がやっている。
「みんな、頑張ってるな」
「当然ですよ。一年生も上手くなりましたよ」
日野の言葉にすかさず、伊山が手を挙げてアピールする。
「先生、いつでも挑戦受けて立ちますよ。もうバッチリですから」
と、腕を大きく振って札をはらう仕草をする。
「まあ、スピードだけなら美紅もたいしたもんだな」
日野の言葉に伊山は、畳に並んだ札に向かって派手にダイブしてみせる。
「うわ、やめてよ、美紅。せっかく位置を覚えてたのに」
天見が口を尖らせて文句を言うと、伊山は笑い出し、それにつられて皆も笑ってしまう。
「調子はどうだ?」
俺は、横にいた岡崎に声をかける。
「いいですよ。一年も熱心にやってくれるし」
「私もね」日野が胸を張るようにして応える。
「柊は来てないのか?」
俺が聞くと日野は少し顔を曇らせる。
「彼だけが、あまり顔見せないですね。頑張るって言ってくれたんだけどな」
「まあ、忙しいんだろ。あまり無理を言うなよ」
「わかってますって。私、きちんと個人の意思は尊重しますから」
「ああ、頼む」俺は、自信を持って胸を張る生徒会長に、思わず笑ってしまう。
「ああ、先生、なんか馬鹿にしてません?」
笑って突っかかってくる会長の攻撃から逃れようとして、天見にぶつかってしまう。
「うわ、すまん天見。日野が悪いんだ」
「あ、大丈夫です先生。じゃあ、私、お先に失礼します」
天見は、そう言うとメンバーに明るく挨拶を交わし、急いだ様子で部屋を出て行った。
それを見送っていると、岡崎が教えてくれる。
「ソラは、家に門限があるらしくって、いつも活動は五時までなんです。六時までには帰らないといけないって……」
――天見は、時々自分のことを「ボク」と呼ぶ。髪はショートで、ひょろっとした体型、一人でいると上着のポケットに両手をつっこんでぼんやりとしていることがある。教師になって七年。俺は、そういう生徒を何人か見てきた。明るく振舞っているけれど、どかか自分の中に閉じ込めているものがある。天見にも、そんなところがある気がしていた。
それは、女性としての自分を無意識に否定しているように思えるからだ。
俺が、そんなことをぼんやり考えていると。
「先生! 私と勝負してください。うまくなりましたよ」
と、伊山が呼びにきて、俺はたちまち練習に駆り出された。
もちろん、俺の勝ちだ。俺も、きちんと札を覚える練習はやっているのだ。




