王都の陰謀と、動き出す魔王軍
一方、その頃。
ルミナスの街から遠く離れた、王国の首都『グランベル』。
豪華絢爛な王宮の謁見の間で、一人の男が怒りに震えていた。
「……何だと? ディルムッドが返り討ちに遭っただと?」
玉座に座る国王の隣で、冷酷な目を光らせているのは、王宮魔導士団の長であるバルザックだった。
彼の前には、装備を全て剥ぎ取られ、ボロ雑巾のようになって送り返されてきたディルムッドが、床に這いつくばっている。
「は、はい……。あのサトウ・カズトという無能が、何やら怪しげな黄金の液体を冒険者どもに飲ませた瞬間、奴らがバケモノのような力を発揮し……。我が騎士団の精鋭が、一瞬で壊滅いたしました……」
「フン、使えない奴め。やはりあの男、追放するべきではなかったか。あの【晩飯の余韻】とかいうふざけたスキル、ただのゴミ能力ではなく、世界の因果律を捻じ曲げる『神の加護』だったのだな」
バルザックは顎を撫でながら、邪悪な笑みを浮かべた。
「面白い。ならば、力ずくで奪うまでだ。幸い、我が魔導士団が開発した『隷属の首輪』を使えば、どんなチート能力者でも完全に自我を奪い、人形にできる。……ディルムッド、名誉挽回のチャンスをやる。我が魔導士団の精鋭三十人と、禁忌の魔導兵器『アイアン・ゴーレム』を連れて行け。今度こそ、あの男を捕らえてこい」
「は、ははっ! ありがき幸せ! 今度こそ、あの無能を血祭りにあげてみせます!」
ディルムッドは狂気的な笑みを浮かべ、再びルミナスの街へと向かう準備を始めた。
しかし、王国の人間たちは気づいていなかった。
王都のさらに北、分厚い暗雲に包まれた『魔王領』でも、ルミナスの街に関する報告がもたらされていたことを。
漆黒の玉座に座る、巨大な角を持つ男――魔王。
彼の前に、一人の隠密魔族が跪いていた。
「魔王様、東方の神獣『天狐』が、人間の辺境の街に逃げ込んだ模様。さらに、その街には『一撃で暴虐竜を葬り、オーク三千を壊滅させた謎のバフ術師』がいるとの情報が……」
「ほう……。面白い。天狐の首を撥ねがてら、その人間の能力、確かめてみるとしよう。我が腹心、四天王の一人『激震のゴルゴス』を向かわせろ。街ごと、踏み潰してしまえ」
『御意に。』
王国の陰謀、そして魔王軍の脅威。
二つの巨大な波が、佐藤カズトのいるルミナスの街へと同時に押し寄せようとしていた。
当の本人は、そんなこととは露知らず、宿屋の厨房で「次の晩飯、何にしようかなぁ。クウが米好きなら、次は『チャーハン』とか試してみるか?」などと、のんきにメニューを考えているのだった。




