飢えた黒狐と、おにぎりの奇跡
ギルドの前には、野次馬の人だかりができていた。
その中心にいたのは、ボロボロの和服のような衣服を纏った、黒い髪と大きな狐の耳、そして九本の立派な尾を持つ少女だった。
彼女は地面にへたり込み、今にも行き倒れそうな様子で、クンクンと鼻を鳴らしていた。
「……ここ、ここから、美味しい匂いがするのじゃ……。我が故郷の、あの懐かしい、米の匂いが……」
少女の視線が、人混みから現れた俺に真っ直ぐ固定された。
「お主! お主が、その匂いの源じゃな! 頼む、我に食い物を……何か米の飯を恵んでたもれ……。もう三日も何も食べておらぬのじゃ……」
グウウウゥゥゥ……と、彼女のお腹から、地響きのような大きな音が鳴り響いた。
ガウルさんが俺の前に一歩出る。
「カズト、気をつけろ。あいつ、ただの獣人じゃない。九尾の狐……東方の果てに住むと言われる、伝説の神獣『天狐』の生き残りだ。魔力の総量が桁違いだぞ」
神獣。
そんな大物が、なぜこんな辺境で飢え死にしかけているんだ。
しかし、彼女の必死な目を見て、俺は放っておけなかった。
「米の飯、ね。ちょうどいいのがありますよ」
俺がマジックバッグから取り出したのは、日本のソウルフード。
コンビニの【ツナマヨネーズおにぎり(パリパリ海苔仕様)】だ。
異世界には米の文化がほとんどなく、あったとしてもパサパサしたインディカ米のようなものばかり。
日本のふっくらとした白米、そしてパリッとした海苔の組み合わせは、彼女にとって最高の救いになるはずだ。
【鑑定】。
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【アイテム:ツナマヨネーズおにぎり(直巻海苔)】
付与スキル:【豊穣の息吹】効果:食べた者のスタミナ(空腹度)および魔力を『100%』完全に回復する。
付与スキル:【神獣の覚醒】効果:対象が獣神、または魔獣の場合、その固有能力を一時的に『限界突破』させ、真の姿を呼び覚ます。
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「ほら、これを食べて。真ん中のフィルムを引いて、左右を引っ張ると、海苔がパリパリのまま食べられるから」
「お、おお……! これが、米……! いただきますじゃ!」
少女――クウは、俺に教えられた通りに不器用な手つきでおにぎりのパッケージを剥き、大きな口でガブッと齧り付いた。
サクッ、という海苔のいい音が響く。
次の瞬間、クウの瞳がカッと黄金色に輝いた。
「う、ううう美味いぃぃぃ!!! なんじゃこれは! 噛めば噛むほど甘みが広がる温かい米、磯の香りが素晴らしい黒い葉(海苔)、そして中に隠された、この濃厚で少し酸味のある絶妙な具材は……! これが、これが天界の食事か!」
ガツガツと、一瞬でおにぎりを平らげるクウ。
食べ終えた瞬間、彼女の身体から放たれる漆黒の魔力が、爆発的に膨れ上がった。
周囲の空間が自重で歪み、ギルドの建物がミシミシと音を立てる。
「な、なんだこの魔力は……!? オーク・ジェネラルなんて比較にならんぞ!」
ガウルさんが武器を構える。
しかし、クウに敵意はなかった。
彼女のボロボロだった衣服が、純白の神聖な巫女服へと変化し、九本の尾が眩いばかりの金色に輝き出したのだ。
「ふぅ……満腹じゃ。お主、最高の飯をありがとう。我の名はクウ。東方の国を魔王軍に追われ、ここまで逃げてきたのじゃが……まさか、こんな場所で『神の料理人』に出会えるとはな」
クウは俺の前に跪き、俺の手を両手で包み込んだ。
「決めたぞ。我は今日から、お主の『守護獣』となる! お主の作る美味い飯を毎日食べるためなら、どんな敵であろうと、この九尾の炎で焼き尽くして見せよう!」
「ええっ!? 守護獣って……俺、ただの一般人ですよ!?」
「関係ないのじゃ! あのツナマヨという味の衝撃、我の魂に刻まれた! さあ、主よ、次の飯は何じゃ!?」
こうして、俺のパーティー(?)に、まさかの伝説の神獣が加わることになってしまった。
牛丼、ポテサラ、唐揚げ、ビール、そしておにぎり。
日本のコンビニ飯が、異世界の勢力図をどんどん塗り替えていく。




