王都からの特使と、不穏な影
オークの軍勢をわずか五人で退けた『紅蓮の牙』の伝説は、瞬く間に辺境の街『ルミナス』を駆け巡った。
しかし、その奇跡の立役者である俺――佐藤和人は、ギルドの片隅にある倉庫で、静かにマジックバッグの中身を整理していた。
「……よし、今回の生成も無事に成功だな」
魔力を少し消費すると、マジックバッグの底から、あの懐かしい赤と白のパッケージ――『からあげクン』の箱が、出来立ての温かさと共にぬっと現れた。
固有スキル【晩飯の余韻】。
地球から持ってきたコンビニの晩飯の『容器』さえ残していれば、一日一回、魔力を消費することで中身を完璧に再生成できる。
このチート能力のおかげで、俺の「弾薬」が尽きることはない。
だが、状況はのんびりした異世界スローライフを許してはくれそうになかった。
「カズト! ここにいたのか!」倉庫の扉が勢いよく開き、大剣を背負ったガウルさんが飛び込んできた。
その厳つい顔は、かつてないほど険しい。
「ガウルさん。どうしたんですか、そんなに慌てて」
「例の、王都からの特使が到着したんだ。ギルド長が応接室で対応しているが……最悪な奴が来やがった」
「最悪な奴?」
「王宮騎士団の副団長、ディルムッドだ。あいつは無能な癖にプライドだけは一丁前で、手柄を他人に横取りすることで有名な男さ。……しかも、お前の名前を指名して探している」
ディルムッド。
その名を聞いた瞬間、俺の記憶の底から嫌な光景が蘇った。
一週間前、この世界に召喚された俺のステータスを見て、「戦闘スキルを持たぬゴミめ! 王国の穀潰しが、とっとと失せろ!」と罵り、俺を王宮から叩き出した張本人だ。
「……なるほど。暴虐竜やオークの軍勢をワンパンで沈めた『謎のバフ術師』の正体が、自分が追い出した俺だと知って、連れ戻しに来たってわけですか」
「おそらく、お前を無理やり王属の奴隷術師にして、自分の手柄にしようって腹づもりだろう。カズト、どうする? 嫌なら俺たちが力ずくで追い返してやってもいいんだぞ。今の俺たちなら、王宮騎士の十人や二十人、一瞬で消し飛ばせるからな」
ガウルさんが不敵に笑う。
からあげクンのバフを経験した彼は、王国の最高戦力すら恐れていなかった。
「いえ、逃げ回るのも面倒ですし、正面から会いましょう。それに……ちょうど試してみたい『晩飯』もあるんです」
俺はマジックバッグの奥深く、まだ誰にも使っていない『秘密兵器』に触れた。
キンキンに冷えた、アルミの缶。
日本のサラリーマンが、一日の終わりに全てを忘れて喉に流し込む、黄金の液体。
「王宮の偉い騎士様にも、日本の『大人の嗜み』を教えてあげないとですね」
俺は黒い笑みを浮かべ、ガウルさんと共にギルドの応接室へと向かった。




